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ugly
棚はきちんと戻して、俺が隠し部屋に入ったことがばれないようにした。隠し部屋には、ゴミ袋とか、注射針とか、カップとか、いろんなものが散らかっていた。部屋の奥にはさらに廊下があり、廊下から複雑に小さな部屋が分かれていた。一つ一つ戸を開けて確認していたとき、たくさんの足音が聞こえて、俺は一室に隠れた。そこには大量の袋に入った粉があり、俺はすぐにこれが薬物であると悟った。これを見られるとまずいから、あいつを眠らせたのか。
足音が完全に去り、建物入り口のドアに鍵がかけられる音がする。
俺は階段から上の階へ上がり、ドアの下から水が染み出しているのを見つけ、戸を開けた。
そこには、丸裸でうつ伏せになって倒れているあいつがいた。
俺はすぐに駆け寄り名前を呼んで、揺さぶった。でもぐらぐらと首が揺れるだけでなんの反応もなかった。
顔は血まみれで全身が濡れていて、冷たかった。
俺はそばに脱ぎ捨てられていたそいつの制服を体にかけて、その上に俺の上着もかぶせてやった。
「なあ、おい、なあ」
どんな小さな反応でもいいから、示して欲しかった。
ポケットからハンカチを取り出して、顔の血を拭う。耳に大きな切り傷があった。耳の半分は、切り落とされていて、そこをハンカチで押さえる。
ゆっくり、体を仰向けにした。脱力しきっていて重い。
恐ろしかった。
でも俺は、耳を胸に当てる。
何も聞こえなかった。
涙も出なかった。
何も伝えられていなかった。
あいつは何も悪くないのに、俺に謝り、謝ったまま、返事を聞くことがなかった。ごめん、ごめんと、俺はあいつを強く抱きしめた。こうすることで少しでも、冷えた体が温まればいい。温まれば生き返るかもしれないとも、思った。
なんであのときこいつを叩いたんだろう。なんで受け取らなかったんだろう。酷い勘違いをして、こいつを深く深く傷つけた。どんな気持ちだっただろう。
冷たい体に命を注ぎ込むことができれば、どれだけ幸せか。
しばらくしてから警察を呼んだ。
サイレンの音が聞こえたとき、無性に悔しくなった。あのとき、当事者気取ってないかとこいつに聞かれたとき、本当に当事者になってしまえばよかったのだ。
最後まで他人のふりをしてこいつを傷つけ続け、助けられる時を逃し続けた。
こいつを殺したのは、紛れもなく俺だった。
何もかもが、遅すぎた。
部屋の小さな窓の隙間から、はるかぜが、忌々しいほど穏やかに、吹き込んでいた。
終
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