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第3話

something left in charge" 預かりもの 凹、凸、そしてその続き ハモった言葉は 「今日さ、僕は(俺は)デートだと思ってたけど」 「けど?」 「けどね!」 ハモったのに微妙に語尾の感じが違ってる。 チョコを渡す前にあの預かり物が気になると、顔にしっかり書いた彼。 可愛いなぁw 「けど.から先は?」と促すと 少し俯いた先にダイニングテーブルの上に置いたあの袋を見やりながら、 「今日さ、僕じゃない人とこの後約束してるの?」と、今にも涙を零しそうな目 黙って立ち上がって、袋に近寄って、 ソファに戻ってきた彼の手には 熊が、20センチほどの熊のぬいぐるみが1つ エ…このぬいぐるみ、どこかで見たことあるみたい 「ちょうだい」 「⁇⁇」 熊が喋ったみたいだ。 思わず、さっきのお店の袋をもう一回確認して、 このハートの色。 「これって、あの店、吉祥寺にもあった店の…」 「www今頃?思い出した?」 「だって、あの時テンパって… わかんなかった」 「もう一回、言うから、ちょうだい」 はっとした。覚えてたんだ。半年も前のことを。 半年前、初めて2人だけで行った映画の後に、吉祥寺ちょっとぶらぶらして井の頭公園まで脚を延ばした。その後お勧めのラーメン屋があると言って(この時もラーメンだったっけ) 帰り道、やたらとハートの多い店先。 デザインされたハートは黒と白。 ハートなのに変わってるなと感じたけど、それでもハートだらけの店は 絶対に男同士では入りにくい店構え。 おまけに女の子で溢れてる店内。 でも内緒で可愛いもの好きの僕は、脚を留めて可愛いものを探してしまった。「入る?」 店の中のソファに置かれた熊のぬいぐるみ 『うわ、可愛い』と内心喜ぶ僕の耳に彼の言葉が聞こえる。 「え?まさか、入れないよ」 苦笑する僕に 「恥ずかしい?wでも何か見つけたみたいな顔だったよ」 「うわ、え、と、あのソファに座った熊がかわ、あっと姉貴が好きな感じだからさ」と慌ててごまかしちゃった。 気持ち悪いよね、20歳過ぎの男が熊好きなんて その時はそれが知られるのがとっても恥ずかしいような気がしてた。 まだ友だちプラス特別というのがゴニョゴニョしてた暑い季節。 そのソファに座ってた熊が今目の前。 「わかってたの?同じ熊、だよね、」 「覚えてたよ、お前の目の先しかいつも見てない。あの後すぐに店に行ったけど、売れてしまってたから、注文して待ってたんだ」 「注文…わざわざ?そうなの?」 「半年経ってやっと来た、同じ系列のお店が渋谷にあったからこっちで受け取ることにしたんだ。オーダー品だって、間に合えば良いと思ってたけどね、間に合ったよ」 「…」 「恥ずかしがり屋のお前が、頑張るだろう時のためのご褒美に、ちょうだいってお願いする熊」 呆然とする僕にもう一回 「ちょうだい」 家に入っても握っていたショルダー、その中の小さなチョコの包みごと抱きつく僕 「あげる、あげるよ、大好きだよ…」 預かり物に振り回された僕の心は 幸せで一杯になった。

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