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第8話

「一体何があったの?しかも無線が途中で切れたんですってね。怖いものでも見た?幽霊とか?」 「…………別に何もありません」 「そんなことないでしょう。突入した山上さんの話だと、腰が抜けて直木さんに抱えられてたとか」 譲は事件の後処理の傍らで、山上班の紅一点である西浦女史から質問攻めをされている。 譲が直木のキスで文字通り蕩けて腰が抜けたのと同時に、山上達が応援を引き連れてパーティー会場へ突入した。組織的な未成年の売春として、奥の部屋に隠れていた安仁屋も逮捕される。直木の読み通り安仁屋は奥の部屋でお気に入りのウサギと篭っていた。 今は山上と直木が厳しく取調べをしている。大林殺害についてもほのめかしているらしく、被疑者逮捕は時間の問題だろう。 確かに、直木とのキスは凄かった。 思い出すたびに、赤面して股間が熱くなる。 男同士という概念を超え、自分がただの性的な生き物になったみたいに、直木を見ると浮き足立ってしまう。今まで男女のそれに全く縁の無かった譲は、どう処理すべきか昂る気持ちを持て余していた。 「あ、それとね、佐渡君。山上班は例の事件の捜査へ戻れることになりました」 『例の事件』とはハロウィン殺人事件の前に干された連続殺人事件である。これで山上の努力が報われると、譲は胸を撫で下ろした。 「それは、よかったですね」 「しかも…………」 「佐渡、ちょっといいか?」 西浦女史の話を遮るように、直木が譲を呼んだ。譲は、直木の声にだけ過剰に反応するように出来ているらしい。弾かれるように立ち上がり直木の元へ駆け寄る。 それを見ていた西浦女史は、書類を持って部屋を後にした。まだまだ譲を観察したかったが、直木に目で制されたため邪魔者は退散するのだ。 「安仁屋が自供したよ。これで俺もやっと警視庁へ帰ることが出来る。今までありがとう」 「えっ……」 「元々応援だったからな。佐渡との捜査は楽しかったよ」 「……こ、ちらこそ……ありがとう……です……」 滲む涙は自分でコントロールできない。直木に会えなくなってしまう。譲の中で名前の無い感情が、直木を求めていた。 差し出された手をぎゅっと握り、微動だにできなかった。 「というのは嘘で、もう暫く応援勤務だそうだ」 「…………ええっ、な、は……?本当ですか。嘘、言わないでください……」 あまりに譲が憔悴したため、意地悪を断念した直木は悪戯に微笑む。 「それに佐渡は忘れてるかもしれないが、ハロウィンパーティは面白かった」 忘れる訳がない。四六時中そのことでいっぱいだと言うのに。 「わ、忘れてなんかないです……あ、あの……」 「何?」 「あ、あの……これからもよ、よろしくお願いします」 「……あんまり『よろしく』されること無いけど、まぁ、考慮しとくよ」 思ったよりドライな態度に拍子抜けしたが、これがハロウィンの思い出で終わってしまったら悲しすぎる。 柔らかな秋の日差しが窓から入ってきた。 譲は涙目を細め、精一杯笑った。 【END】

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