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第7話
譲は直木と共に奥の部屋を目指した。
パーティーフロアは人が多すぎて身動きが取れない。最初から奥にある個室に安仁屋がいるのではないかと直木は踏んでいた。譲にもその段取りは知らせてあり、無線で山上にも報告した。
狭い通路を抜けて、個室がいくつか並んでいる廊下を歩く。そこはウサギを食べようとしている獣達で溢れていた。オッサンと女の子が廊下や開け放たれた室内で、公然といちゃいちゃしている。男女のそれに免疫が無い譲は赤面しながら、どうしていいか分からず立ち止まってしまった。他人の濡れ場など見たくない。
「どうした?」
「い、いえ……何もありません」
「需要と供給がうまい具合に成り立った結果だ。気にするな」
気にするなと言われても、気になるものはしょうがない。年配の脂ぎった欲望に金で買われる女の気が知れないと、譲は軽蔑の眼差しを送った。そこまでして得る金は虚しくないのだろうか。
目的の場所手前で、用心棒らしき人に呼び止められる。強面の黒服はいかにもなチンピラに見えた。
「こっからは関係者だけだから、遠慮してもらえますかね」
あと少しで安仁屋へ辿り着けそうなところで思わぬ障害にぶつかり、直木は焦りを飲み込めずにいる。
どうしたらいいのか……
身分を明かして突入する方法もあるが、今ここでパニックを起こして逃げられては元も子もない。騒ぎを起こすリスクの方が遥かに高かった。隣には、ドラキュラの衣装を着た譲が緊張の面持ちで立っていて、その様子に胸がキュンと痺れる。
自分一人ならどうにでもなる。
譲を守る為になんとかしなくては……
直木は咄嗟の判断で譲を抱き寄せ、そしてやれやれと言った感じでため息をついた。
「連れが、みんなに見られて嫌だって言うんです。誰もいないとこでしてほしいって……こっちの部屋は立ち入り禁止ですか」
直木が譲の肩を抱き、いかにも愛しい恋人のわがままだと困ったふうに言ってのけた。やっとここまで辿り着いた苦労を逃したくない。譲も思考を回転させて、直木にもたれかかった。
直木の腕の中に収まる自分は、チンピラにはどう写っているか気になる。必要以上に煩い心臓もどうにかしたかった。直木から香るいい匂いに、頭がくらくらする。
「すまないね。奥の部屋は立ち入り禁止ですわ。でも、俺は空気と同じだから気にしないんで、ここで好きにやってもらっていいっスよ。お相手さんも我儘ですね……」
「どうも……じゃ、こっちにおいで」
「……うん」
チンピラから2メートルほど離れた廊下で、直木は譲を抱きしめる。ここからなら、部屋の扉が見えるし安仁屋の動向も分かる。
そして、壁ドンに近い距離で、直木が譲を覗き込み、無言でいきなり唇を奪った。譲は心臓が飛び出るくらい驚いたが、それよりも何よりも、舌を入れられて動揺してしまう。
蠢く湿った快感で引いた腰を引き寄せられ、密着した状態でキスが続く。
「ふぅ…………ぁっ、ぁ……んんっ……」
『佐渡。恋人らしく、俺に従って』と、耳元で直木が囁いた。譲は必死に頷いて、酸素を取り込む。生まれてこのかた、付き合ったこともキスもしたことがないのだから、対応の仕様がなかった。でも、やるしかない。
何度も何度も、濃厚な口付けを繰り返し、譲は夢見心地になる。直木の舌が気持ち良くて、無意識に自分から直木の身体を手繰り寄せていた。
「気持ちよさそうだな。可愛いよ」
「…………え、あ、す、すみません」
「謝ることではない。本当はこれも処理してやりたいが、生憎任務中だ。また今度」
やんわりと固くなった股間を揉まれて、譲は顔から火が出そうになり、腰が抜けてしまった。
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