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第1話

 いつも君は不思議な格好でやってくる。出会った時もそうだった。 僕は君のライブの余韻を消したくなくて、一本離れた通りの地下にある静かなバーのカウンターにいた。 皮膚から染み込んでくる声、まるでその声に包まれているよう……。 外にある音や会話は僕には関係ない。何も考えたくない。僕だけの世界はこのまま終わっても全然構わないんだ。君の声で僕は満たされている。 年季の入ったカウンターに頬杖をつき、キラキラとホログラムが光るライブのフライヤーを見つめながらグラスに手を伸ばすと 「何飲んでるの?」  僕を満たしている声に表面張力があったならきっと盛り上がってあふれていただろう。誰も何も入って来れない僕の中に唯一入れる『君』が入ってきたんだ。 丸い氷が入った薄くてキラキラと輝くグラスの端を押さえた人差し指。カウンターに寄りかかって僕を見る君は緑のセルフレームのメガネをかけていた。 僕はその声に全身が痺れたように動かなくなってしまい、ずっと君を見つめていた。隣の席に待ち合わせたようにするりと座った君は、カウンターのフライヤーをまた人差し指で押さえて耳元で言った。 「いつも一番後ろにいるの、知ってるよ」  その言葉で僕を満たしていた『君の声』が沸騰したみたいにめちゃくちゃに溢れてしまったんだ。きっと何を言ってるのかよくわからなかったと思うけど、君はずっと僕を見て、話を聞いてくれた。 僕は何を飲んでるか答えなかったのに君はいつの間にか同じものを頼んで飲みながら頷いてくれて。  あの日の僕はお酒で酔っていたんじゃなくて君に酔っていたのは間違いない。柔らかな声と踊るように動くしなやかな指先は僕を緊張から解放したみたいだ。だから何を喋ってたのか本当に覚えていないんだ。僕はなにかおかしなことをいってなかっただろうか?  でも、袖がすごく長くて体の部分は胸のあたりまでしかない不思議な形の服を着ていたのは覚えてる、もちろんすごく似合っててカッコよかった。

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