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第5話

 ビクッと黒沢が小さく震え、驚いた顔で陽介を見た。 「…今治?」 「あっ!…っその…っ、先生は、指輪してねぇのなっ?」  慌てて手を離しつつパニックになった頭で必死に言葉をかき集めるものの脈絡のない話題になってしまった。当然ながら、黒沢は怪訝そうにしている。それでも答えてくれた言葉に、今度は陽介が驚く。 「結婚してないんだから、当然だろう」 「え?なんで?だって、もう40だろ?」 「なんでって…残念だが、そういう縁に薄かったんだろうな」 もしかして…と、陽介の胸に期待が溢れた。 「……先生、ゲイ……とか?」 同じであれば、嬉しい。 けど、分からない。 どんな態度をされるか分からず、視線は下にしたままだ。  すぐに返ってこない言葉に、弁解しようと口を開いた瞬間、「違うよ」と無機質な声音が答えた。

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