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第4話

「つまり、ここは未然形の助動詞だから…」 「あ、じゃあ、こっちですか?」 「そう」  昼休みのためか他の国語科の教師は準備室に居らず、陽介と黒沢は二人きりで先程の補習の内容を復習していた。 黒沢のスラッとした指先にあるボールペンが流れるようにノートへ文字を書いていく。まるで黒沢の一部を貰ったようで、陽介の心は人知れず踊っていた。 このノートは絶対無くせない。  ニヤケそうになる。 近くにいる黒沢にバレないよう、そっと口許を手で隠し、鋭い切れ長の目を更に鋭くして陽介は耐えた。 「ほら、簡単だろう?君はちゃんと授業を聞いてれば分かるはずだよ。いつもボーとしてるから赤点になるんだ」  さらっと熱のない声で冷静に図星を指摘され、陽介はヴッと声をつまらせた。動揺を隠すように項を掻く。最近伸ばしっぱなしの髪が少しくすぐったかった。 「…だって、古典よくわかんねぇし…」 「法則が分かれば、それほど難しくないんだから、少し我慢して授業に集中すればすぐ分かるようになるよ」 「そうかもしんねぇけど…。てかさ、先生はなんで古典なわけ?やっぱ、おもしれぇって思ってんの?古典」  本当の理由を言うわけにはいかず、しどろもどろになりながらやや強引に話題を変える。 「…そうだなぁ。…面白いと言うより…」  思いの外しっかり考えこんでしまい、暫く黒沢が黙った。そうして、ようやく開いた言葉に陽介は首を傾げた。 「……変わらないものがあるって感じられるからかな」 「?」 「僕たちが生まれるずっと昔から変わらないものがあるんだってことだよ」 黒沢の声音が変わった。 (あ…)  少し寂しそうに伏せた瞳に、憂いのある声。はじめて表情と声が一致した。 本当の黒沢に出会えた気がして、陽介は思わず机の上にある黒沢の左手を握ってしまった。

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