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第3話

「それじゃあ、明日、今日の範囲を小テストで確認するので、しっかり復習しておくように」  午前中の補習授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると、名簿と教材を持って黒沢はさっさと教室から出ていった。 陽介も出していたノートや教科書などを慌ててリュックの中に詰めて、黒沢の後を追う。 「っ、黒沢先生」  廊下を歩く黒沢を呼んだ。 色素の薄い髪が揺れて、黒沢が振り返る。授業の時に湛えていた笑みは消えていた。 「あの、さっきので分かんねぇとこあるから、教えて欲しいんですけど…」  ほぼ同じ高さに黒沢の顔があり、陽介はドキッと心臓が高鳴るのが分かった。40の年相応に皺のある顔が陽介を確認して一度目を伏せると、小さく笑みーー優しそうな、けれど少し胡散臭そうなーーを浮かべた。 彼はいつもそうだった。 そして、それが陽介を魅了するのだ。 「午後は予定があるから、昼飯を持って準備室に来なさい」 「はい」  約束が取り付けられると陽介は嬉しくなり、早速購買部で適当に惣菜パンを買って、足早に国語科準備室へ向かった。

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