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第2話

「また、キミか。今治(イマハリ)」 「…」 大きくないけれどよく通る、けれどどこか無機質な声音が呆れたように溜め息を吐いた。  今治陽介(イマハリ ヨウスケ)は、高校2年生になった。 夏休み、補習授業。 中間テストと期末テストで赤点を取った生徒が受ける。 陽介は古典のテストで赤点を取っていた。 しかも、1年生の時から毎回赤点だったため、今まで担任になったことのない古典担当の黒沢和彦(クロサワ カズヒコ)に顔を覚えられていた。  黒沢は柔らかな微笑を湛えながら、補習組の名簿を淡々と読んでいく。特進クラスの補習者を抜かした8名全員の出席を確認すると、そのままのローテンションで1学期の古典範囲を復習する補習授業が始まった。 黒板に書く音と黒沢の声が重なる。 それを、割り当てられた窓際の席で、陽介は聞いていた。聞けば聞くほど、黒沢の優しそうな姿と無機質な声音が合わなくて気になってしまう。 古典の成績が悪いのは、半分くらい黒沢のせいじゃないかと陽介は思う。 元々理数系が得意で文系が苦手だったとはいえ、古典以外は赤点を取ったことはなかった。 黒沢のことが気になって、授業に集中ができない。 そして、この補習の時間も陽介にとって、大切な時間だった。 黒沢と一緒に居られる。 たくさん話ができる。 自分のことを気付いてもらえる。  陽介は、自分がすでにゲイだと認識していて、黒沢への気持ちが恋愛の好きなのだと理解していた。 だからこそ、休み中も会えるこの時間を思って、試験で手を抜いてしまう。 自覚した青少年の恋心は、どうしても密かに隠しきれなかった。

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