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第5話(完結)

「紫月……ッ、俺は……お前が本気で嫌がることはしたくねえし、しねえつもりだ……。だから聞かせて欲しい。俺に身請けされたからとか、世話になってるからとか、そんなことはどうでもいい。俺が……嫌いか……? 俺にこんなふうにされるのは嫌か――?」  切なさと欲情と興奮と――全てを綯い交ぜにしたような遼二の瞳の中には、爆発寸前の激しい焔がユラユラと点っているかのようだ。  重ね合わせた熱が、じわりじわりと更に温度を上げていくような気がするのは錯覚だろうか―― 「嫌い……なわけねえじゃん……。俺は……俺だって……若さんは俺ンことなんか……眼中にねえんだって、ずっと思ってたんだ」 「――紫月?」 「だって……若さん、なんもしてくれねえし……! 伽だって……金で買ったんだから当然って態度でもいい、別に俺に対して特別の感情なんかなくたっていい。ただの性処理の道具でいいって……思ってた。例え身体だけでもアンタが……好きにしてくれたらいいって……ずっと――」思ってた、その言葉を取り上げるかのように髪ごとむんずと掴んで唇を奪った。  先程にも増して濃厚な――今度は迷いのかけらもない激しいキスだ。 「――ッ、とんでもねえこと……言ってくれて……もう我慢なんかできっこねえ……ぜ!」  毟り取る勢いでシャツのボタンの隙間から手を入れ、そのボタンごとブチブチと引き裂くようにして、その下に眠る素肌を求める。まるで強姦するかのようにベルトを引き抜き、ジッパーを歯で噛みながら引きずり下ろせば、むっくりと熱を増した硬さに目眩を誘われる。独特の雄のニオイが立ち上っては興奮を煽る。  こんなふうに乱暴なことをしたにも係わらず、紫月も欲情してくれているのだと知った瞬間に、遼二の頭から理性という言葉が吹っ飛んだ。  下着の中で硬く膨らんだ彼自身が愛しくて堪らない――布ごと食してしまわん勢いで咥え込み、下着の上から舐め上げれば、ビクリと浮いた腰の動きで彼の腹に思い切り頭をぶつけた。 「……っ、ごめ……、若……さん……ッあ……!」 「だから……”若さん”はよせって……のに」 「ん、ごめ。分かっ……! けど、あの……頼みがあるんだ……! 若、じゃなくて……遼……さん!」 「――何だよ」 「俺、その……風呂まだ……なんだ! だから……その……汚えし……シャワー使ってから……!」 「必要ねえな」 「けど……ッ」 「恥ずかしいか? 汗の匂いとか体臭を気にしてるのか? お前のココも――しっとり温っけえし、いいニオイだ」 「……ッ、恥ずかしいこと……言うな……って! だからシャワ……先に……」 「ダメだ。もっと嗅がせろよ――お前のいいニオイ。そうやって恥ずかしがる面(ツラ)も堪んねえ」 「……! アンタ、サドかよ……! こんなん……」 「実際――シャワーなんぞ待ってる余裕がねえんだ。それだけだ」  グイと両脚を抱え上げ、大きく開脚させて真上から見下ろす。 「いい眺めだ」 「……マジで……鬼畜……ッ」 「鬼畜――ね? そんな言葉、どこで覚えた?」 「どこって……そんなん、知らね……たまたま……だよ」 「ふん――、たまたまか。何かもう……全部がたまんねえ……な」  そのまま紫月を抱き上げてベッドルームへと拉致した。  逸る気持ちのままに自身のネクタイを緩めて放り、シャツを脱ぐ。ベルトを引き抜き、ジッパーを下ろすのももどかしく、押し倒すように覆い被さった。  互いにズクズクに着崩した着衣が、より一層の欲情を煽るかのようだ。勢い余って掴んだシャツがビリリと音を立てて引き裂かれ、二人は更なる淫らな波に呑まれていった。  シャツを裂いた遼二も裂かれた紫月も、普段は感じたことのないいやらしさに興奮している自分たちを自覚する。 「……は……ぁ、やべ……え、遼さ……ん……! マジで……どうにかなっちまいそ」 「”さん”はいらねえっつったろ……! あんまし聞き分けねえと――」  今一度、シャツを掴んで毟り取るように引き裂いた。もう抑えなどきくはずもない。 「……ふぁ……ッ、遼……さ……、遼――!」 「それでいい……! もう”さん付け”したら許さねえぜ……!」 「……っ、あ……分かっ……、あ……ぅあッ……!」  ベッドのスプリングは高級品だ。普段はどんな寝相をしようともビクともしないそれが、大きく上下して揺れ動く。美しく整えられたスプレッドを乱して、二人は互いを貪り合った。  本能のまま、絡み合い、乱し合い、攻め立てて逃げ場を取り上げて――互いの全てを逃がすものかと貪り尽くす。 「……ッの野郎、紫月――! んな、エロい面しやがって……。そんな顔、俺以外の……誰にも見せんじゃねえぜ……! いいか、お前がこの身体を――いや、心もだ。身も心も……全てを許していいのは俺だけだからな! よーく……ッくそ、……覚えとけよ!」 「……分かって……る……、俺だって……遼さんを……」  俺だけのものにできたら、どんなにいいかって。アンタだけのもんになりてえ――って、ずっとずっと夢見てきたんだから!  視線だけでそう訴えてくる紫月を抱き潰す勢いで攻め続けた。出会ってから互いに溜め込んできた想いが堰を切ったようにあふれ出て、高窓から覗く月にまで届きそうだ。 「愛してるぜ、紫月――! ぜってえ逃がしてなんかやらねえ。ぜってー放さねえから……覚悟しろ――ッ!」  凄むような台詞とは裏腹に、その声音はそこはかとなく甘くて、そしてとてつもなく優しい。  一目見たその瞬間から、互いに魅かれ合った。その想いを胸の内に秘めながらも、全く表せずにきた。そんな二人の想いが堰を切り――若頭領だとか、囲われ者だとか、そんなことはどうでもいい。互いの瞳の中に互いだけを映し、熱に潤ませ、愛しさに緩める。そこには二人だけの甘い世界があるのみ――。 - FIN -

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