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第1話
「マントで吸血鬼、に見せかけて。
のっぺらぼうの仮装とは、手が込んでますね…」
接客中にも関わらず感心した表情で言う彼の口からは、
その面妖な姿に思わず素直な感想がこぼれていた。
全く悪意の感じられないそのホームセンターの店員に、
軽く頭を下げてのっぺらぼうである私は袋を受け取る。
現代は技術も進んでいるから、
「なんかよく分からんけどあの人多分見えてるんだろう」
ぐらいの認識をされているはずだ。
本当に今日がハロウィンで良かったし、魔法も使えて良かったと心から思う。
でなければ病院へ行って点滴で血を貰うしか食事をする方法が無い。
それに今頃、歩く事も出来なかっただろう。
――というのも、私は別に「のっぺらぼう」ではない。
昨日、従者である狼男に一足早いイタズラで、身体から顔をひっぺがされた。
正真正銘の「吸血鬼」である。
飼い慣らしたはずの食糧に、「ハロウィンだから」と言うふざけた理由で反抗されたのだ。
先ほどは針金を買ったところで、家に帰ったら地道に室内に取りつけるつもりだ。
家庭菜園の動物避けもそろそろ必要だと思っていたので、丁度良かったのもあるが。
普段であればのっぺらぼうになった時点で外に出ることなど出来ない。
しかし、ハロウィンであれば面妖な何かが街中を闊歩しても、そこまで気にも留められない。
「痛いコスプレの人が堂々と歩いている」
という精神的なダメージを多少なりとも喰らうだけで済むからだ。
人間に全く擬態せずに楽に歩ける日に、こんな事になっているのは大変不本意だが。
先に寄ったコンビニの袋と、針金とペンチ入りのホームセンターの袋。
それを片手に持ちながら、少々浮かれ気味の街中をいつも通りの道を通って帰る。
道行く人々の若干の恐怖に怯える視線。
そして「あの人のコスプレやべぇ…」という視線を一身に受けながら。
私は未だ帰らぬ狼男を迎え撃つ為の地道な準備をするべく、自宅へと戻った。
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