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第2話

自室の部屋を開けると、そこには既に先客が居た。 昨日、奪った私の顔をピザ職人さながらに、左の掌に載せている人狼だ。 そして見覚えのない、真っ白なマネキンの頭が私の机の上に増えていた。 彼は帰ってきた私を見るなり、嬉しそうにしながら、右手でマネキンの頭を指さす。 「聞いてご主人様。これね、1000円だったんです」 「ふざけるなよ?」 自分の顔は無いが、思わず口元を押さえる。 顔自体は確かに彼の掌の上なのだが、どうやら喋る事が出来るらしい。 「すごい!昨日持ち出した時は全然喋らなかったのに!  そっか、離れちゃいけなかったんだ!」 興奮した様子で私の顔を見つめながら、右手の人差し指で頬を軽く撫でる。 剥がされた直後から一度も感じた事はなかったのに、今は感覚があった。 苛立ちを隠せずカツカツと足音を立てながら近づいて行くと、 今は顔の無い「顔面」を掴まれる。 「なっ!」 「ストップ。返して欲しかったらじっとしててください」 「この、クソガキ、私に逆らうなど」 「そんな事言っていいんですか?ご主人様の顔、俺次第なのに」 そう言うと、私の顔面を掴んでいた手を離す。 そして、人より少し長い爪を持つ指は無理矢理、私の口をこじ開けた。 器用に閉じる事が出来ないようにしながら、今はあるはずの無い喉の奥へと入り込んでくる。 「んっ……ぁがっ……!」 「すごいなー、俺もどうなってるか分からないんだけど、奥があるなんて」 何とか抵抗しようと口に力を入れても、牙が刺ささらない所に手を入れられている。 その上、人狼のパワーは人の姿をとっていたとしても、到底私が勝てる物ではなかった。 顔のない自分を動かし、手を伸ばして捕まえようとするも先程までのように身体が動かない。 近くに顔があるせいなのか、目から入ってくる情報に引っ張られて正しい位置が掴めない。 歩き出した瞬間、彼に出された足に引っかかり、床に倒れ込む。 掌の上に顔があるが故に、視界の端にも映らなくなった身体を動かす事はままならなかった。 起き上がれない私を横目に見ると、少しだけ口の中をいじる手が緩められた。 「顔が近くにあると、そっちからの情報で感覚がぐちゃぐちゃになってますね、ご主人様」 「ぅ……るさ……ぐっ……!」 あまりにも的確な物言いに、何か言い返してやりたかった。 が、再び指が奥へと入れられ、それは叶わなかった。 幾度となく血を吸ってきたはずの少年が指を引き抜くまで、口の中を弄ばれるだけだった。

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