1 / 209
序章・O【オー】
――寒い。
足の爪先から頭頂部まで、身体中の血管を行き交う血液はまるで凍っていくようだ。
助けを求めて伸ばしたその手は空を掴み、虚しく落ちる。
先ほどはたしかに鮮明だった世界は色褪せ、感情も、痛覚さえも麻痺していく――。
目の前にいる男は充血した目を見開き、冷ややかな視線を寄越す。
開いた口から覗く鋭く尖った犬歯は鮮血を滴らせる。やがて力尽きるであろう自分を嘲 っているように見える。
そこにいる彼はもはや人間ではない。血に飢えた化け物だ。
そうして彼は夜を纏 う。生を無くした化け物は呻り声を上げ、漆黒の闇に紛れた。
ともだちにシェアしよう!