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序章・O【オー】

 ――寒い。  足の爪先から頭頂部まで、身体中の血管を行き交う血液はまるで凍っていくようだ。  助けを求めて伸ばしたその手は空を掴み、虚しく落ちる。  先ほどはたしかに鮮明だった世界は色褪せ、感情も、痛覚さえも麻痺していく――。  目の前にいる男は充血した目を見開き、冷ややかな視線を寄越す。  開いた口から覗く鋭く尖った犬歯は鮮血を滴らせる。やがて力尽きるであろう自分を(あざけ)っているように見える。  そこにいる彼はもはや人間ではない。血に飢えた化け物だ。  そうして彼は夜を(まと)う。生を無くした化け物は呻り声を上げ、漆黒の闇に紛れた。  

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