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第一章・仇為す者に死を。(1)

(三)  目の前には張りのある若々しい肉体がある。  一糸も纏わない肢体がふたつ、ダブルベッドの上で狂おしく貪り合う。彼らが動くたびにぎしぎしと軋むベッドのスプリング音は聞いていて実に心地が好い。  唇が陶器のように白い柔肌を余すところなく這い回り、その後を追って花弁のような赤い痕跡が散っていく。  深夜遅く、彼が引っかけたのは引き締まった筋肉を持つ、性欲が有り余っている二十代の青年だ。年若い人間ならば食事がうんと進む。なにせこの年齢は皆、性的好奇心が旺盛で活力も精力も有り余っているのだから――。  現にこの青年は、少し甘い声で誘ったただけで尻尾を振って着いてきた。  アマデウスは自分を組み敷く青年の後頭部を引き寄せ、仰け反る。  青年は満足そうに悦に浸り、アマデウスの胸に乗っているふたつの蕾を交互に食む。舌先で転がし、あるいは甘噛みしながら吸うと開花していく二輪の花の美しさに、うっとりと目を細めた。  アマデウスの視線の先には魅惑的な肉壁の中に沈めたいと願う肉棒がすっかり赤黒く変色し、大きく膨れ上がっている。  淫魔とは、身体そのものが魔力を持っている。だから人を魅了するのに特別な力なんていらない。必要ならいつだって誘惑できるし、たとえどんな相手でも、淫魔を目の前にすればたちまち虜になってしまう。それほど強力で従順な力が彼には備わっていた。  すっかりアマデウスの魅力に囚われた青年は、用意された檻から抜け出すことができない。

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