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第3話 いつもの二人① ※

『おいで』  何かを企んでいる事は伝わったのか、小さく苦笑を浮かべた和真が両腕を広げて亜樹を呼ぶ。亜樹が断るなんて想像もしていないのだろう。真っ直ぐに亜樹を見つめながら待っていた。 『仕事は、もう良いの?』  吸い寄せられるように近づいた身体を、腕の中に収めるように引き上げられる。 『さっきから捌いてるんだ、少しぐらいは良いだろう』  そっと口を寄せられ、唇を甘噛みされていく。甘い痺れが走り思わず鼻にかかるような吐息が漏れれば 、開いたわずかな隙間から舌が口腔内へ差し込まれる。 『ふっ、んん……まっ、待って』 『待たない』  言葉の通りに無遠慮な舌が歯茎をなぞり、口蓋を弄って快感を紡いでいた。  逸らす事ができないよう、抑える両掌に耳孔さえも塞がれる。それだけで、絡み合う舌の動きに合わせて濡れた水音が脳内に響き、疼くような熱が溜まっていく。   『だめっ、か、ずま……後か、ら……』  微弱の電流のような快感で息が上がり始めた状態の中、亜樹は弱々しい抗議の声を上げた。  仕事中の息抜きで亜樹に触れている時は、和真は決して最後まではしてくれない。本当に息抜き程度にこの身体を弄った後は、いつも何事も無かったかのように仕事に戻ってしまうのだ。  そうなれば、熱に燻る身体が辛くてどんなに亜樹が求めても、仕事が終わるまで、和真が触れてくれる事はなく。後は自分で身体を慰める事も許されないまま、いつ終わるかも分からない時間を堪えるしかなかった。 『やっ、かず、ま……いま、は……』  その苦しさを思って亜樹がもう一度抵抗の声をあげる。そんな亜樹の唇を解放した和真がそっと唇に指を添えてきた。 『亜樹』  言葉を禁じるように立てられた指に合わせて名前を呼ばれれば、亜樹はひくりと喉を鳴らして口を噤んだ。  亜樹の名前を呼ぶいつもの声音とは全く違う、諭すような、命じるような音だった。  静かで決して高圧的ではないはずの声音なのに、その声で名前を呼ばれればもうダメで、亜樹は全てを受け入れるように目を閉じた。

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