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第20話 ペットの努め ※

 一昨日までは、触れ合う唇に心が跳ねた。絡められた舌に求められて。交わされる唾液に二人の熱が、混ざり合っていくようだった。  唇が離れた時だって、濡れた銀糸が唇をつないで。まるで離れる事を惜しんでいたようだったのに。  それなのに。    今は離れた唇は乾いたまま、ろくな体温さえ残していなかった。  お金の対価でしかない行為との区別のために、始まりに求めたキス。亜樹にとっては大切な行為だったとしても、今の和真には大して意味がないことがハッキリしている状態だから。  和真の上から降りた亜樹が、そのまま和真のズボンに手を伸ばした。促す様子も止める様子もない和真のチャックを引き下ろす。  強い視線だけは感じていた。それでも何も言ってくれない和真が、いま何を思っているのかが分からない。間違えてばかりの中で、泣けない心はボロボロだった。 (今度はちゃんと正解を選べてる……?)  ためらいながら和真の服を(はだ)けさせる。だけど取り出した和真のモノは、亜樹の不安通りに兆しさえない状態だった。 (俺とのキスで和真を楽しませるなんて、ムリだもんな……)  それなら、どうすれば良いんだろう。 (客との行為の時には、どんな風に触っていた……?)  少しでも喜んでもらいたかった。  これまでの経験を思い出しながら、手で刺激を与えつつ、亜樹が裏筋へ舌を這わせていく。何度かの往復の後、窄めた唇を先端から仮首へと沿わしながら喉の奥まで飲み込んだ。  根元に添えた手でも刺激を与えつつ、吸い付くような口腔内の動きと深く早めのストローク。慣れたその性技は客相手なら効果があって、手っ取り早くイカしてしまう事が出来ていたのに。  刺激にわずかに硬さを持ち始めた和真のモノはそれ以上、起立する様子が見られなかった。上手く反応してくれないソレに、亜樹の中へ不安に近い焦りが湧いてくる。 (もっと奥まで含めば良い?それともスピード?)  咽頭まで含むように喉を開いて、和真の太く長いそれを含んでいく。その苦しさに嘔吐(えず)きそうになる。 「もういい、やめろ」  そのままストロークしようとした亜樹の頭上から、降ってきたのは呆れたような声音だった。 『ペットなんだから、飼い主を楽しませてみろ』  和真の声が脳裏を過る。  ペットは捨てないと言われていた。  楽しませることが何もできないペットも、同じように傍においてくれるんだろうか。 (このままいらないって言われたら……)  亜樹は和真のモノを咥えたまま、フルフルと小さく首を振る。もう少し頑張ればちゃんと気持ち良く出来るはずだから。まだチャンスが欲しいのに。 「亜樹、離せ」  それでも、途端に不機嫌さを増した声で名前を呼ばれれば、もうこれ以上は粘ることはできなかった。

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