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第25話 ペットの躾 ③ ※

「い、れ…ない、で……おねが、い、入れ…ない、で……」  腰を高く上げ、顔をシーツに押し付けたまま、亜樹が後ろの和真をどうにか見上げる。  今日の責めがビーズならば、まだろくに始まってもいない状況だ。それなのに、苦手な責めを与えられ、すでに一度イカされた亜樹の身体はすっかり熟れた状態だった。 (こんな状態で、もう一本なんて……)  それはどれだけの苦しさになるのか。不安がどんどん増してくる。  しかも、溢れ出したとは言っても、まだ中には始めのジェルもそれなりに残っているのだろう。少しでも込める力を抜けば、体温に溶けたジェルが蕾から零れそうだった。  和真が考え直してくれることを願いながら、懇願の言葉を繰り返す。 「先に言っといただろ。零したら追加するって」 「ご、ごめ…ん……」 「謝る必要はない、次は上手くやればいい」  和真の掌が汗で張り付く亜樹の髪を優しく払う。  慈しむようなその温もりと仕草が思い出のものと重なり、心が甘く震えた。 「で、でも…む、むり…ほん、とに……でちゃ、う……」  すでに感じきった身体で和真の愛撫を堪えながら、さっきよりも増えるジェルを中に留めきれるとは思えなかった。  わずかに湧いた甘えが、期待いを生んでしまう。 「ムリでもいいさ、できるまでやれば良い」  ここ数日の中で声音は1番柔らかかった。だが、慰めにも聞こえるはずのセリフも、その内容はどこまでも残酷で。亜樹が引き攣ったように息を飲んだ。 「やっ、おねが、和真…おね……」 「亜樹、さっさとしろ、ますます苦しい事になんか、成りたくないだろ」  柔らかく聞こえるよそいき(・・・・)の声音が、言外に素直に言うことを聞かなければ、ペナルティを増やす事を告げている。 「や、やる、ちゃんと、やる、から……」  震えの大きくなった亜樹の身体をさする和真の掌は、以前のように優しかった。 「いい子だ。ペットは素直で賢い方が良いからな」  その言葉に胸が疼きだす。 (そうすれば、また今までみたいに優しく触れてくれるの?)  それなら和真に気に入られるような、ペットに成りたかった。 「…がん…ばる……から、そ…し、たら……」 「そうしたら?」 「…なでて、くれ、る……?」  頑張ったな、って目を細めて笑ってくれる顔がほんとうは見たいけど、ペットの立場できっとそれは望めないから。  他人へ向けたような、よそ行きの笑顔でもいい。今度こそ自分用の思い出を1つずつ集め直していきたかった。 (俺に向けたものなら、何だっていい……)  スケッチブックの中を思い、亜樹が真っ直ぐに和真を見つめた。その目に和真が目を大きく見開く。 「あぁ、そうだな」  なでてと腹を差し出す犬や猫だっているだろう。 (ペットから、なでて欲しいって言っちゃダメだった…?)  和真が何に驚いたのか、亜樹には分からない。それでも和真のその言葉に、覚悟を決めたように目をつむった。

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