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第1話

「おはようございます、坊ちゃん。」 アイロンをかけた新聞紙と目覚めの紅茶をワゴンに乗せ、坊ちゃんを起こすことで私の1日は始まる。 目覚めの良い坊ちゃんは、カーテンを開け部屋に光を入れるだけで、目を覚ましてくれる。 「んん……おはよう、僕の可愛い天使」 聞いている方が恥ずかしくなるほど、甘い甘ーい言葉。 それも違和感を感じさせない大人でも子供でもない時期特有の美しい顔で、にっこりと微笑んだ彼は、私のご主人様である神宮寺春彦様だ。 神宮寺家に就いた時は坊ちゃんのお父様、直彦様に仕えていたが、今は坊ちゃんに仕えている。 呼び方が「坊ちゃん」のままであるのも、そのためだ。 坊ちゃんに私が仕える理由としては、直彦様曰く「春彦を一人前の男にするため」とのこと。 「天使のために、早く起きてくださいませんか」 「ふふ、京介が淹れてくれたミルクティーを飲んでからね」 朝一番に飲む紅茶は、半分眠っている状態から起こすための目覚まし代わり。 アーリーモーニングティーと呼ばれる。 一般的に知られている通り、ブラックコーヒーを飲めば一気に目も覚めるが、坊ちゃんにはまだ子供のような可愛い部分がある。 坊ちゃんは少し眠たそうに、胸までベッドに潜り、ミルクティーを口に含んだ。 「ねえ、いつ僕と付き合ってくれるの?」 そう言いながら、上目遣いで私を見る。 「今日の予定を、完璧にこなしていただけたら考えます」 これも、朝のルーティンだ。 坊ちゃんが予定なんて、簡単にこなしてしまうことも知っている。 私はこうして、坊ちゃんが毎日伝えてくださる気持ちに安心して、この毎日が続いてほしいと願ってしまっている。 「今日の予定はなぁに?」 そう言いながら新聞紙を広げ、経済状況やニュースを確認していく。 今の時代は電子機器の方が便利なものの、坊ちゃんは紙で読みたいのだそうだ。 きっと、直彦様を見てきたからこそ、習慣を真似するところから入りたかったのだと思う。 「本日は、9:00から伊集院様がいらっしゃいます。10:00からは霧島様、10:30からスーツの新調、11:00から……どうされましたか?」 「んー?京介の声が、心地良いなと思って。」 坊ちゃんが、コトンと頭を寄り掛けてきた。 外の優しい風に当たり朝日に輝く姿は美しく、さらに唇からは甘い言葉。 それだけで、私の胸は簡単に高鳴った。 「本日は、いつもより多い来客などで予定が立て込んでおりますので、一覧をお渡しします。」 「京介、ありがとね。僕がこれだけ忙しいなら、京介は僕以上に忙しい。無理はダメだよ。何があっても、僕がいることを忘れないで。」 坊ちゃんは仕事量の多さに加え、気遣いが完璧でメイドやシェフにも嫌な顔をしない。 そして、当たり前のように私の仕事を心配してくださる。 私の、執事のことを決してバカにせず、対等に、それ以上に。 私はこうして、好きを積み重ねていくのだ。 ご主人様と執事という関係で、男同士という許されない関係なことも忘れ……。 どうか、この幸せな毎日がいつまでも続きますように。

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