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SS

啓が二十歳になったころの小話です *** 「……うん、わかった」 母親からの電話。返事をして切る。 内容といえば掃除をしておくように、と―――10日後引っ越し、もとい家に戻るということの再確認だ。 親父が転勤になってお袋と妹がついていったのが三年前。 俺ももう大学生になった。 「あークソ暑いな」 ぼやきながら上半身半裸でバスルームから戻ってきたのは和己。 高二のころから付き合いだしていまもずっと一緒だ。 親父がローンで買ったマイホームと和己の部屋と、行ったり来たりの毎日(といっても実家に帰るのはほんとう週一で、しかも和己つきだったりするけど)。 半同棲っていうかほぼ同棲というか。 当然のように毎日一緒にいる生活だ。 和己はキッチンへ行ってビールを取り出すと一気に飲み干してあっというまに二缶目を開けている。 明日も仕事なんだし飲み過ぎるなよ、と思いつつこれからのことを考えてじーっと見てたら「なんだ」とうろんそうに言われた。 「……別に」 もともと親父の転勤は3年間って決まってた。 だから戻ってくるのもわかってたし、本当に帰ってくるってわかったときも―――和己にはそう伝えた。 そのときの和己の返事と言えば『ふーん』という気のないものだけ。 確かに和己にとっては俺の家族が戻ってくる来ないなんてどうでもいいことかもしれない。 でも……俺にとっては少し……っていうか、かなり不安だ。 だって、どうなるんだ? 家族が戻ってくるってことは和己の家に入り浸っている俺も実家に戻らなきゃいけないだろうし。 でも……いまさら? 付き合い始めが親父の転勤がきっかけだったから、それが解消されて、んで一緒に居られる時間が少なくなるとか……いまさらだろ。 「お前、眉間にしわ寄ってるぞ。じじくせぇな」 三本目のビールを片手に薄く笑いながら和己がソファにどかりと腰を下ろした。 会う時間が減ることにたいして和己は不安なんてまったくなさそうだ。 確かにそんな不安なんて女々しいかもしれない。 でも俺はやっぱり―――一緒にいたいし。 「……和己」 「あ?」 「引っ越し22日だって」 「前聞いた」 「……あのさ」 「なんだよ」 「……―――俺いなくなってもごはん食べろよ」 「は? お前旅行でも行くのか」 「……だから親父たちが帰ってくるんだから俺だって家に―――」 「オイ、啓」 「なに」 「お前、いまいくつだ」 「……なんだよ急に。二十歳なっただろ」 「二十歳、なってンだろ」 呆れたように笑いながら和己がデコピンしてきた。 かなり強烈で痛くて「イテッ」って思わず叫びながら額を抑える。 「なにするんだよ」 「二十歳にもなった男がわざわざ親元で暮らさなきゃなんねぇ理由あンのかよ。高校のときだって俺はいたが実質一人暮らしって親御さんは思ってるわけだろ」 「……」 「お前が家出て一人暮らしするだの恋人と暮らすだのルームシェアするだの言ったって、止められはしねーだろ」 「……」 言われてみれば成人してるわけだし……実家暮らしを絶対しなきゃならないってわけじゃない。 高校のときだってついていかないってことを最終的には了解してくれたし。 「……俺……このままここに居ていいのかな」 もしかして不安に思うことなんてないのかな? ぼそり呟いたら、和己は口角を上げてビールを飲みながら答えた。 「ここ以外どこに居るんだよ、バーカ」 本当にバカにしたような口調。 だけど―――俺の口元はバカみたいに緩んだ。 そんな単純な俺の襟元を掴んで和己が引き寄せる。 「最初ヤったとき、言ったろ」 至近距離で笑いを含んだ眼差しを向けられてキョトンとする俺に、 「逃がさないためにヤったんだって」 乱暴なキスが落ちてくる。 アルコールの匂いのするキス。 慣れて慣れまくってるはずなのに、するたびにもっとしたくなって、もっと欲しくなってしまう。 「一生逃がさないから覚悟してろよ?」 好き勝手に俺の咥内を蹂躙した和己が濡れた唇を舐めながら目を細めて言った。 俺は―――ただ笑って、もう一度今度は俺からキスをした。 [おわり]

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