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1-F
「お、おはよう、佐久間」
「おはよ、藤」
久しぶりに緊張気味に挨拶する俺と爽やかな笑顔で挨拶する佐久間。
「ねーねー、あの子ちょーカッコいいよね」
「有名人かな?」
「あそこ見て、イケメンがいる」
待ち合わせ場所の駅前に行くと、周りがひそひそ声で話している。
その内容の人物がいる方を見ると……いた。
黒のダウンにジーパンとスニーカーというシンプルな格好の佐久間が。
身長もあり体格もいいので、それだけで様になっている。
そう、目立っている。
……声かけづらいなぁ。
只今、午前9時。
イケメンイケメンとは思っていたが、顔だけでなく、体型もイケメン(?)なんだと思い知らされた今日この頃…。
「この映画おもしろそうだな」
昼休み、ハナミズキの下にて。
いつものランチタイムになりつつあるシーン。
雑誌の後半にある今月のオススメ作品を読んでいたところ、佐久間がその雑誌を覗き込んできた。
だいぶ、佐久間の近さにも慣れてきた。
ドキドキはするけど、程よいドキドキ。
「そうだね。この監督の作品、結構シュールだけど面白いよ」
「藤は、この映画見に行った?」
佐久間は、目線は雑誌のまま、記事を読みながら聞いてきた。
「いや、まだ。見に行こうとは思ってるけど」
そう言うと、くるっとこっちに顔を向けた佐久間。
だから、その不意打ちやめてー!
程よいドキドキが、尋常じゃないドドドドドーになるから!
「じゃあ、見に行くか?」
最近、不良佐久間は鳴りを潜め、もっぱら少年佐久間が多い。
普段は鋭い目つきも、俺といるときはイタズラっ子なお目々の佐久間。
そんな佐久間にキュンとしながら、
「うん!」
と首がもげるんじゃね?ってぐら頷いた。
…のが3日前。
「上映時間まで時間あるけど、ス◯バかどっか寄る?」
そして、いつもと違う雰囲気にテンパっているのが現在。
だってさー、だってさー、お街で会うのは初めてだし、私服だと何だか大人っぽいし。
横に並んで歩くのは、俺の見知らぬ佐久間だし。
「藤?」
周りの人々が、チラチラ見テルヨ…。
「藤!」
「あ、ゴメンゴメン!何だっけ?」
周囲を気にしてしまい、全然聞イテイナカッタヨ…。
「時間があるから、どっか寄る?」
ソノ顔…カワイスグルヨ…。
「えーっと、パンフを購入いたしたいので、そのまま映画館でお願いいたしまするよ」
「藤、どうした、そのしゃべり?」
不思議そうに笑う佐久間。
イケメンなのに可愛いとか罪だから!
やベぇ…映画館まで心臓が持たないかもしれない。
途中で鼻血、いや吐血のパターンもある。
「藤、大丈夫か?さっきから、顔がおかしな事になってるけど?」
「だ、大丈夫アルヨ」
「ホントか?」
訝しげに俺の顔を見る佐久間。
何とか話を変えなければ。
「じ、実は、昨日寝てなくて」
コ、コレはホント。
「ん、夜更かしか?」
「夜更かしというか〜、その〜、今日が楽しみで寝れなくて…」
って、話の持っていきかた間違えた!
楽しみで寝れないとか、子どもかっ!
逆に恥ずかしっ!
「実は、俺も」
「え?」
俺も?
「藤とのデートが楽しみで寝れなかった」
「で、で、で!?」
でーとですと!?
「なーんてな。冗談、冗談」
冗談と言いながらも、少し照れた顔の見知らぬ佐久間に……、やはり吐血です。
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