2 / 14

1-S

「お、おはよう、佐久間」 「おはよ、藤」 緊張気味にいつもの挨拶をする藤に返答する俺。 「ねーねー、あの子ちょーカッコいいよね」 「有名人かな?」 「あそこ見て、イケメンがいる」 待ち合わせ時間の15分前。 駅前で藤を待つ。 だいぶ寒くなってきたが、待つのは苦にならない。 今日は、藤と映画。 どんな格好で来るのか、昼は何食うか、映画の後は買い物とかするのか…。 柄にもなく色々考えていたら、こそーっと現れた藤。 紺のピーコートにジーパンとスニーカーの、いたってフツーの高校生な格好。 ただ、ぐるぐる巻きにしたマフラーからちょこんと覗く顔は……狙ってるだろ。 只今、午前9時。 デカい目をキョロキョロさせて…。どこ見てんだ。俺が目の前にいるのに。 昼休み、ハナミズキの下にて。 いつものランチタイムになりつつあるシーン。 雑誌を見ていた藤。 あるページを開いてしばらくページをめくらなかったので、チラリと見る。 今月のおすすめ作品か…。 「この映画おもしろそうだな」 "雑誌を見る"を口実に、藤のパーソナルスペースへ。 だいぶ慣れたのか、以前のようにビクついたりはなくなった。良い傾向だ。 「そうだね。この監督の作品、結構シュールだけど面白いよ」 藤が映画好きなのは、家に遊びに行って気づいた。 リビングのテレビ台の下に、綺麗に整理されたBlu-rayとDVD。 スピーカーも天上からぶら下がっていた。 家族で映画ファンなのだろう。 「藤は、この映画見に行った?」 目線は雑誌のまま、記事を読みながら聞いてみた。 「いや、まだ。見に行こうとは思ってるけど」 待ってました、その言葉! 「じゃあ、見に行くか?」 最近、藤のツボが分かってきた。 クールな感じより、少し幼い表情がお好みのようで。 そんな顔をすれば、藤はく〜っと悶えるような表情になる。 そして、今回もご多分に漏れず。 く〜っとなった後、嬉しいそうに、 「うん!」 藤…いま首やっただろ。 それが3日前。 「上映時間まで時間あるけど、ス◯バかどっか寄る?」 そして、いつもと違う雰囲気に気分が上がっているのが現在。 初めて街で会う藤。私服だといつも以上に子どもだ。あざといぐらい子どもだ。 横に並んで歩くのは、俺の知らない……挙動不審な藤。 「藤?」 だから、何キョロキョロしてる。 「藤!」 つい、強めに呼んでしまった。 「あ、ゴメンゴメン!何だっけ?」 慌てて俺の方を見る藤は少し不安げ。 「時間があるから、どっか寄る?」 いや、可愛いから許すけど。 「えーっと、パンフを購入いたしたいので、そのまま映画館でお願いいたしまするよ」 「藤、どうした、そのしゃべり?」 目はどこかを向いて、変な口調で喋る藤に笑ってしまった。 が、…挙動不審がすぎる。 ……。 やベぇ……、ガチで藤の様子がおかしい。 顔の表情もぎこちなさすぎる。 「藤、大丈夫か?さっきから、顔がおかしな事になってるけど?」 「だ、大丈夫アルヨ」 「ホントか?」 訝しげに藤の顔を覗くと、 「じ、実は、昨日寝てなくて」 寝てねーだけで、この不可解な言動。 違う意味で、コイツは大丈夫なのか? 「ん、夜更かしか?」 「夜更かしというか〜、その〜、今日が楽しみで寝れなくて…」 目線を落として、ボソボソと言う藤。 それは、俺との映画が楽しみすぎて、緊張して寝れず、挙動不審におちいったとの解釈でいいのか? そういう事なら…、 「実は、俺も」 「え?」 俺も同じ。 だから、 「藤とのデートが楽しみで寝れなかった」 オマエの好きな俺の表情(かお)で言ってやる。 「で、で、で!?」 デートは…、自分で言ったものの恥ずかしいな。 「なーんてな。冗談、冗談」 俺の言葉に真っ赤な顔でテンパる見知らぬ藤…、やっぱ……やベぇ。

ともだちにシェアしよう!