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1-S
「お、おはよう、佐久間」
「おはよ、藤」
緊張気味にいつもの挨拶をする藤に返答する俺。
「ねーねー、あの子ちょーカッコいいよね」
「有名人かな?」
「あそこ見て、イケメンがいる」
待ち合わせ時間の15分前。
駅前で藤を待つ。
だいぶ寒くなってきたが、待つのは苦にならない。
今日は、藤と映画。
どんな格好で来るのか、昼は何食うか、映画の後は買い物とかするのか…。
柄にもなく色々考えていたら、こそーっと現れた藤。
紺のピーコートにジーパンとスニーカーの、いたってフツーの高校生な格好。
ただ、ぐるぐる巻きにしたマフラーからちょこんと覗く顔は……狙ってるだろ。
只今、午前9時。
デカい目をキョロキョロさせて…。どこ見てんだ。俺が目の前にいるのに。
昼休み、ハナミズキの下にて。
いつものランチタイムになりつつあるシーン。
雑誌を見ていた藤。
あるページを開いてしばらくページをめくらなかったので、チラリと見る。
今月のおすすめ作品か…。
「この映画おもしろそうだな」
"雑誌を見る"を口実に、藤のパーソナルスペースへ。
だいぶ慣れたのか、以前のようにビクついたりはなくなった。良い傾向だ。
「そうだね。この監督の作品、結構シュールだけど面白いよ」
藤が映画好きなのは、家に遊びに行って気づいた。
リビングのテレビ台の下に、綺麗に整理されたBlu-rayとDVD。
スピーカーも天上からぶら下がっていた。
家族で映画ファンなのだろう。
「藤は、この映画見に行った?」
目線は雑誌のまま、記事を読みながら聞いてみた。
「いや、まだ。見に行こうとは思ってるけど」
待ってました、その言葉!
「じゃあ、見に行くか?」
最近、藤のツボが分かってきた。
クールな感じより、少し幼い表情がお好みのようで。
そんな顔をすれば、藤はく〜っと悶えるような表情になる。
そして、今回もご多分に漏れず。
く〜っとなった後、嬉しいそうに、
「うん!」
藤…いま首やっただろ。
それが3日前。
「上映時間まで時間あるけど、ス◯バかどっか寄る?」
そして、いつもと違う雰囲気に気分が上がっているのが現在。
初めて街で会う藤。私服だといつも以上に子どもだ。あざといぐらい子どもだ。
横に並んで歩くのは、俺の知らない……挙動不審な藤。
「藤?」
だから、何キョロキョロしてる。
「藤!」
つい、強めに呼んでしまった。
「あ、ゴメンゴメン!何だっけ?」
慌てて俺の方を見る藤は少し不安げ。
「時間があるから、どっか寄る?」
いや、可愛いから許すけど。
「えーっと、パンフを購入いたしたいので、そのまま映画館でお願いいたしまするよ」
「藤、どうした、そのしゃべり?」
目はどこかを向いて、変な口調で喋る藤に笑ってしまった。
が、…挙動不審がすぎる。
……。
やベぇ……、ガチで藤の様子がおかしい。
顔の表情もぎこちなさすぎる。
「藤、大丈夫か?さっきから、顔がおかしな事になってるけど?」
「だ、大丈夫アルヨ」
「ホントか?」
訝しげに藤の顔を覗くと、
「じ、実は、昨日寝てなくて」
寝てねーだけで、この不可解な言動。
違う意味で、コイツは大丈夫なのか?
「ん、夜更かしか?」
「夜更かしというか〜、その〜、今日が楽しみで寝れなくて…」
目線を落として、ボソボソと言う藤。
それは、俺との映画が楽しみすぎて、緊張して寝れず、挙動不審におちいったとの解釈でいいのか?
そういう事なら…、
「実は、俺も」
「え?」
俺も同じ。
だから、
「藤とのデートが楽しみで寝れなかった」
オマエの好きな俺の表情 で言ってやる。
「で、で、で!?」
デートは…、自分で言ったものの恥ずかしいな。
「なーんてな。冗談、冗談」
俺の言葉に真っ赤な顔でテンパる見知らぬ藤…、やっぱ……やベぇ。
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