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第10話

翌日家を出るとセイが家の前に立っていた。僕を見るとニコリと笑顔を浮かべ手を振っている。 「お、おはよ。如何したの?」 戸惑いながらも挨拶をしながら此処にいる理由を訊く。 「一緒に登校しようと思って連絡も入れたんだけど、見てないか?」 スマホを取り出して確認すると確かにセイからメールが来ていた。 「ご、ごめん。気付かなかった」 即座に謝るとセイは笑って許してくれて学校に行く道を歩き出した。僕も慌てて後を追う。 「でも何で迎えに来たの?僕もう体調悪くないよ」 そう伝えるとセイは悪戯な笑みを浮かべて答えた。 「んー、反応見たさかな?」 反応……?不思議に思って考えたが全く何も思い付かず思考を放棄した。矢張りセイの考えている事を汲み取るのは難しい。 本心が何処にあるか分からない人だからなぁ。 話をしながら歩いて数十分で学校に着いた。 「昨日も思ったけど案外双葉の家って高校から近いよな」 「ああ、うん。そうだね」 一瞬言葉を濁してしまった。この学校を選んだのは宮野さんが居たからという単純明快な理由で志望したのであまりこの話には触れて欲しくなかった。 鋭い彼の事だから突っ込まれたら如何しようかと思ったけどセイは特に気にしていない様で内心ほっとする。 と、後ろから突如騒めきが聞こえ反射的に振り向くと間近に詞空が迫っていた。 本当に突然の事で突っ立て詞空を見上げていると、詞空は青い瞳に殺気を散りばめながらセイを睨んだ。 「如何して二人が一緒に居るの?」 「やあ。おはよう詞空」 詞空の問いには答えずに涼やかな笑顔で挨拶するセイ。だが詞空は全く納得していないみたいで再度問いかけて来た。 「何で靖涂と双葉が一緒に居るのか訊いてるんだ」 語気を荒くする詞空にセイは落ち着いてと声を掛ける。 「双葉と登校したからだよ。それが如何かした?」 セイは詞空の前では良い子を演じてるらしく何時もの荒っぽい口調とは程遠い。小首を傾げ可愛らしい笑みさえ浮かべている。 ……君、そんな表情出来たんだな。 半ば冷めた目でセイを見つめていると、こっちを向けと言わんばかりに詞空の手に引かれた。 「双葉って俺以外にも親しい人間が居たんだ?」 若干声が沈んでいるから落ち込んでいる様にも見えるが、目の奥には明らかに怒りの炎が渦巻いていた。 あれ?若しかして今、とても面倒な事に巻き込まれてる? そう気付いた時には遅く、詞空の腕に抱きかかえられていた。 唖然とするセイの姿が目に映り僕自身も呆然とする。 え、待って。詞空は何をする気……? 詞空はそんな僕ら二人の事なんて気にも留めず歩き出した。揺れて咄嗟に詞空の首に抱き着く。 落ちたくない。流石に落ちたら怪我しそうな高さだから。 詞空は自分の教室では無く空き教室に入り扉の鍵を閉めてしまった。 机の上に置かされまじまじと詞空の顔を見た途端、一気に血の気が引いた。 詞空は無表情だった。ていうか無表情過ぎてほぼ能面に近い。瞳は虚ろがちで何処に焦点を置いているのか分からない。 兎に角、この状況がとてもまずいと感じた。脳が逃げろと危険信号を送っている。 動こうとすると詞空が覆い被さって来た。彼の端麗な顔立ちが直ぐ目の前に有り少しでも動いたら確実に唇同士が触れ合う。 固まったまま動けないでいると詞空の手が僕の首筋に伸びる。 ゆっくりと線を辿って行く指の動きが擽ったくて首を左右に振る。 ふと此処で漸く詞空が口を開いた。

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