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第1話
キーンカコン、ガシャン、プシューっと、その一体は機械音が鳴り響いている。民家は見当たらず、周辺は開けており、コンクリートで固められた様な、巨大な建物がぽつんと佇んでいた。
空に向かって何本も伸びる煙突から、モクモクと煙が排出され、付近一体は甘いく香ばしい匂いが立ち込めている。
季節のイベント間近になると、建物からは昼夜問わず機械の音と煙が舞い、甘い匂いがさらに空気を濃厚にさせていた。
「スケジュールはどうなってる! 時間が無いんだぞ! それは後回しにして、こちらに人員を増やせ!」
「はっ、はい! 奄美主任!」
奄美壱弦 は、大手お菓子メーカー『クラウン☆カンパニー』のファクトリー責任者。
長身で黒々とした髪は綺麗にセットされ、キリリと整えられた眉に、形の良い少し鋭い黒い瞳。正に出来る男の見本の様だ。二十七歳にして、もうすぐ課長職まで一気に昇進が決まっている。
但し昇進までの条件は、このハロウィン用に用意された特別なお菓子を、無事届け出す事が出来たらと、条件を出されたばかりだった。
社員の意見を聞き面倒見が良く、生産管理も抜群の彼は、少々厳しく口が悪いが、多くの社員そして本部からも一目を置かれている。
そんな彼が何故昇進に条件を出されたかと言えば、事の発端は一通の手紙……いや、予告状が先週本社に投函されたのが切っ掛けだった。
本社での会議が終わり工場へ戻ろうとすると、奄美は社長秘書に声を掛けられ、社長室へと向かった。
「わざわざ呼び出して悪いね」
「いえ、とんでも御座いません」
「まずは、これを見て貰えるかね?」
社長はテーブルの上に置かれた紙を、スッと差し出し神妙な顔付きでため息を吐いた。秘書が「どうぞ」と、奄美の手元までカードの様な紙を手渡すと、社長同様に曇った顔付きになっていった。
「──っ! これは……悪戯ですかね? 警察には?」
「警察には一応連絡はしたがね。これだけでは動けないらしい。それに、大ごとにしたくは無い理由も君には理解出来るだろう? まぁ、その後アクションも無しだ。悪戯だと踏んでは居る。ただね、ハロウィン前の繁忙期だ。多少ナーバスになる位が丁度良い。そこでだ。奄美君には申し訳ないが、ファクトリーの監視も密にして貰いたい。特に、例の商品だけは何があっても必ず……奪われてはならない!」
社長はそう言うと、最後に「もし失敗したら、昇進は無しだ」とハッキリと奄美に伝えたのだった。
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