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第2話
奄美は社長室を出ると、眉間にシワを寄せ見えない犯人を睨み付けた。
こんな訳の分からない予告を出しやがって……。
これでもし昇格が流れたら、今までの苦労が水の泡だ。
そう心で呟くと颯爽と本社を後にし、自分の城を守るべくファクトリーへと足早に戻って行った。
予告状に記された文面は、新聞や雑誌の文字をくり貫き、貼り付けられた物だった。
ファクトリーの事務所に戻ると、奄美は椅子に腰掛け頬杖を付きながら、犯行予告を訴える文面をもう一度見返していた。
『クラウン☆カンパニー様
虎の子、満月の前日、変身前にお迎え致します
怪盗S』
悪戯にしては短い文章で、さぁこの謎が解けるか? と、挑発している様な内容だ。
虎の子と言えば、動物園などに居るタイガー。だか虎は変身などしないはずである。満月に変身すると言えば、狼男位だろうか。
怪盗と名乗っている時点で、ここへ何かを盗みに来る事は間違いのだろう。
考えを巡らせると、奄美はハッとして瞳を大きく見開いた。そしてニヤリと口角を上げると、興奮した表情で予告状をぐしゃりと握りしめた。
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太陽が落ち月が高く輝く頃、暗闇に紛れて何かが蠢いている。まるで動物の様に俊敏に動くそれは、クラウン☆カンパニーの工場の屋上にふわりと影を落とした。
ふふっ、今日もフル稼働みたいだ。
人が多い方が、紛れるには丁度良い。
ここまでは計画通りだ。
怪盗Sは全身を黒色で包み、夜の闇に溶け込んでいた。ウエーブがかった髪を掻き上げると、目を細めて忍び込める扉を物色する。トレンチコートを羽織、すらりと伸びる細い足にはピッタリとしたパンツに、ショートブーツを履いている。
良く街で見かける様な青年で、工場で働く社員にも居そうな雰囲気で特に違和感を感じ無かった。であれば、正面から堂々と入っても問題は無いが、怪盗Sには入れない理由があった。
クラウン☆カンパニーは菓子メーカーと言えど大企業。セキュリティは意外にも厚く、社員証が用意出来なかったのだ。社員証ぐらい偽造出来そうだが、エラーで弾かれ、警備員に取り抑えられてしまったのでは、計画が台無しだ。
依頼は急遽訪れ下準備する時間が少ない有様だった。それでも怪盗Sにとっては、どうしても受けたい大きな仕事であった。成功すれば、知らぬ間に膨らんだ借金が全て返済出来る程である。
これで俺もやっとこ自由の身だ。
とっとと頂いて、立ち去りますか。
ペロリと唇を舐めほくそ笑むと、怪盗Sは頭を振り気合いを入れ直す。目元が隠れるマスクと革手袋を装着し、セキュリティの甘い屋上の扉を、素早くピッキングで開錠し音も立てずに内部へと忍び込んだ。
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