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第9話
最後はボソリと呟き、僕の名前をペンネームで揶揄し、童貞と馬鹿にする間風さんの引き締まったお腹を殴りつけてやる。
デスクワークの癖に、腹筋割れてるとか反則でしょ。
オレ様の癖に顔がイイのも反則だ。
ポカポカと数度両手で交互に殴りつけていると、スッと手首を掴まれてしまう。
「ダメですよ……先生。手は漫画家の命でしょ?」
指先にチュッと唇を落とされ、僕は目を見開き固まってしまう。
「こっ、子供をからかわないで下さい……」
「フッ、ガキって認めるか?」
ニヤリとしながら僕を見つめる間風さんの視線に堪えられなくなると、ふいっと顔を背けて「行きますよ」と促す。
その後をクスクス笑いながら付いてくる間風さんに、ちょっぴり……数秒、ときめいてしまったのは内緒だ。
先程の指先チュウはネタに使えるかも? とレストランに向かいながら思案していると、間風さんは「詩世ちゃん」と今度は本名の下の名前で呼んでくる。
「下の名前で呼ば無いで下さい」
「イイじゃん別に。それよかハロウィン用のコスプレだけどよ? もうちょい腹のとこ、露出控え目にしろ。後、太腿の所もだ。ありゃ、絶対領域越えてるわ」
「あのですね……。それぐらい僕の原稿も、見て貰えないんですか?」
「見ただろ? それとな、ハロウィン当日は俺も付き合うからな。何処でコスプレするのか、後で連絡寄越せよ」
「イヤですよ! 僕のプライベートに立ち入らないで下さい!」
「詩世ちゃん、そりゃ却下だ。作家を守るのも担当の役目ってね。諦めろ」
「ああもうっ! 横暴担当なんて最悪です! 編集長に言い付けて、担当代えして貰いますよ!」
「ふーん。そんな事言ってイイのか? 俺みたいに面倒見がイイ奴早々居ないぞ? 泣きっ面になるのは、しまじ先生ですよ? ほら、とっとと今の内に謝っとけよ?」
「〜〜ッ、どうも申し訳ございません! 間風様っ!」
ハロウィンまで後数ヶ月。
暴君でオレ様な僕の編集担当との戦いは今回も始まったばかり。
今後も奮闘の日々は続きそうである。
━END━
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