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第8話

「ストーカーだと? 笑わせるな。猛獣使いの調教師と言え。大体時間が無いと言いながら、コスプレ衣装をせっせと製作しているお前はなんだ? そんなにコスプレイヤーになりたいなら、今すぐ転職しろ」  ジロリと僕を睨み付ける目の前の暴君に、負けじとキリッと視線を返す。  僕の名前は湯佐島詩世(ゆさじましせ)。二十歳を迎えたばかりの大学生。学生ではあるが、職業は駆け出しの漫画家。ジャンルはボーイズラブである。  目の前にいるいけ好かない傲慢で、オレ様な態度を披露しているのは、僕の編集担当、間風彰太(まかぜしょうた)。年齢は二十代後半位だろうか。  十月号に掲載予定のハロウィン特集原稿に奮闘中である。最新作は社会人と怪盗が織りなす、シリアスラブを題材にした話で進めていたのだ。上がったネームを提出すると、一言で「やり直せ」と片付けられてしまい現在に至る。 「コスは僕のストレス発散なんです! ハロウィンはコミケの次に最大イベントなんで、奮闘するのは仕方ないじゃないですか! 勝手にツイ追わないで下さい! 大体……間風さん、担当ならもっと的確なアドバイスしたらどうなんですか?」 「何が仕方ないだ。本分疎かにしたら許さねぇぞ。お前の場合的確に指示した所で聞かねぇだろ。そもそも最初のプロットから、何故このネームが上がるんだ? コマ割も糞つまんねぇんだよ」 「──そっ、そこまで言います? 今回は……自分的にいい出来かなって……」  シュンと落ち込み出す僕に、間風さんは深いため息を吐くと、赤ペンでチェックを入れ始めた。  大きな骨ばった手を大人しく見つめ、ストーリー展開について指摘を受ける。丁寧にネーム用紙を揃え僕の前に置いた。 「この冒頭の奄美の登場シーンが長すぎる。二人が出会うまでに何ページ使ってるんだ。もう少し端的にしろ。ハロウィンらしさも物足りない。エロは……まぁ、描写でカバーだな。以上、出来るな?」 「……はい。明日……イヤ、明後日までに送り返します」 「素直でよろしい。だが、明日だ。俺が取りに出向く」 「いっ、いいです! 来る前に送りますよっ!」 「あー期待はしてねぇよ。なら、ほら飯行くぞ」 「はぁ……。でも、僕時間が……」 「黙れ。体力も付けねぇと、描けるもんも描けねぇよ」 「なら、奢って下さい」  困った様に笑う間風さんを伺うと、頭をポンポン叩かれる。 「本当にお前、ガキだよな」 「何を言ってるんです? 僕もう成人しましたよ?」 「ああ、そういやそうだったな……。でもまだ童貞だろ?」  今度はニヤリと笑う間風さんに、僕はみるみる赤くなっていく。 「童貞で悪かったですね!」 「……悪くは無い好都合だ。俺は感心してるんだよ。童貞の癖にしまじ先生は、エロ描写の神様って評判だ。お前一体何処であんなの覚えて来るんだよ」 「妄想はピカイチなんです! 実体験の訳ないじゃ無いですか。……童貞で処女なんですから」

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