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チョコアイスにお願い ①ハル

「おっ、当たりじゃん」 一口サイズのチョコアイス。 「えっ?」 「それだよ、ハートの形してるでしょ?」 六つ並んだ中の一つが確かにハートの形をしている。 レアなんだよお〜。と 全校生徒憧れの的の美貌の生徒会長は チャーミングな笑顔で言った。 「好きな人と一緒に食べると恋が実るらしいよ」 「……」 「ハルくん、誰のこと考えてるのかなあ?」 「い、いや、べ、べ、別に誰の事も……」 甘い声の持ち主が脳裏に浮かんだ事は俺だけの秘密だ。 「ふーん。でも、顔真っ赤だよ」 内緒話しでもするみたいに会長は俺の耳元で囁いた。 その指摘にドキドキしながら俺はアイスを口に入れた。 一つ、二つ。口内でコーティングされたチョコが溶けて バニラアイスの甘さが拡がっていく。 「先輩も一つどうですか?」 「いいの?じゃあ、コレを……」 「あっ」 「冗談だよ」 この人絶対俺で遊んでるな……なんてちょっと 不貞腐れ気味になっていると 何やら後ろから冷たい視線を感じた。 「楽しそうですね」 振り向かなくたってそれが誰かなんて分かってる。 俺が一緒にハートのチョコアイスを食べたい奴。 チョコアイスより 甘い声と笑顔の持ち主。 「おう、お前知ってるか、このアイス……」 振り返った時 俺は上手く笑えるだろうか? ハート型のチョコアイスに願いをかけてみる。 せめて友人として……ずっと…… * 「ふーん」 登場の瞬間からの不機嫌モードは依然継続だ。 教師に呼ばれているらしい会長はあの後 「後は任せたよ?」 じゃあね……なんて言って手をヒラヒラさせて 生徒会室から出て行った つられて同じ様にヒラヒラさせた俺の手を嫌そうに見て ため息をついたのは 不機嫌な顔でさえ男前な罪作りな親友だ。 それからそれぞれ役員の仕事を終えて いつもふたりで行く定食屋での食事。 会長から聞いたチョコアイスの云々について話すと にこりともせず冒頭の 「ふーん」 だ。………ったく。 何が気に入らないんだか。 俺はたいして食べたくもないサラダに箸をつける。 十種の具材のサラダ。 「お前は昔から好き嫌いが多いから サラダくらいはこういうのを食べなさいよ」 普段クールで素っ気ない親友が そう言って勧めてくれてから俺の定番メニュー。 嫌いな人参もいつもなら楽勝なのに 今日はなんだか……うまく飲み込めない。 「で、何?お前はそのハートのチョコアイスとやらを……」 「ん?」 「……いや、いい」 「なんだよ。云いかけて止めるなよ。か、感じわりぃ」 「悪かったな!感じ悪くて」 珍しく尖った声に驚いて 突き回してただけのサラダから視線を正面に移すとしかめっ面で耳だけ赤くした親友の姿。 ーーヤバい……。 なんか……すげえーくる。この表情(かお)。 「もしかしてお前、最初にハート型チョコ引いたのが俺だからって拗ねてんの? でも見せてやったろ?ちゃんと。 あっ、でも引いたのは俺だから、叶うのは俺の恋だけどな」 内心の動揺を悟られないようにしゃべり続ける。 「まあ、でもモテモテのお前には必要ないんじゃね?」 そんな俺に 「バーカ、どーでもいいヤツにモテても……」 そこでクスリと笑うと、仕方ないだろ?……と。 ーーどーでもいいヤツ……。 なんかグサっときた。グサっときたけど 「ハハハ…。そりゃそーだ」 上手く笑えた。よな?…… 「なぁハル、俺はな…。 俺は…… そういう親友の耳はやはり赤くて 端正な顔とのギャップに俺は見惚れてしまう。 「ああああ。止めた。もういい!!もういいから、食え、どんどん 食え!食え!!食ってちったぁ太れ」 急に吹っ切るみたいに言うと 皿に盛られた料理を綺麗な箸使いで俺の皿に取り分けてくれる。 素っ気なさと優しさの絶妙なバランスで 俺をドギマギさせた男は その夜最後まで不機嫌の訳を教えてはくれなかった。

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