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友達よりもっと フユト&ハル…… 雨、キスの思い出編
「マジかよ」
コンビニの外は真っ白な土砂降りだった。
確かに今にも降り出しそうではあったけどさ。
何もここまで
「降らなくても」
雨男の癖に傘を持って出かけるのが嫌いな俺はいつも出先で傘を買うハメになる。そして今日もやっぱり……
右腕にした時計に目をやると約束の時間まで後少し。
思わず出てしまいそうになるため息も甘い声を想えば別の意味に変わる。
*
「お前って時計、右腕にしてんのな」
「え?あぁ、これ?うん、なんとなくな」
「ふーん。ちょい見せて」
不意に掴まれた右手。跳ねる心臓。
次の瞬間強く引き寄せられて抱き締められていた。
「バ、バ、バカ、な、な、何を……」
「しぃぃ。黙って」
「……」
ーーだ、黙って、って……
ーーそんなことしたらきっと聞こえてしまう
ーーどくん。どくん。どくん……
「お前の匂いがする」
「えっ?ウソ、なんか変な匂いする?
昨日、ちゃんと風呂入ったのにおかしいな。
ちょっと、は、放して…」
「……」
「フユト?聞こえてる?」
掌で胸を押しても
一向に緩む気配のない抱擁に焦りながら問いかけた。
「フユト?」
「黙ってろって」
「そ、そんな事、言われても……」
「うるさい」
「……」
「黙って…大人しく………させろ……よ」
いつもより少しだけ低い声。
途切れ途切れの台詞の後にゆっくりと近付く端正な顔。
そして
柔らな唇が俺の唇に触れた。
それは
乱暴な言葉とは裏腹な
ただ、触れるだけの優しいキス。
ーーあの日も雨が降っていた。
*
「おい、何赤くなってんだよ?」
唐突に俺の回想は遮られる。
「へ?」
目の前には待ち合わせの相手。
「フ、フユト?なんで?」
土砂降りのせいで傘をさしても少し濡れた髪。
その髪を掻き上げる仕草に目を奪われて状況判断が鈍ぶる。
「こっちこそなんで?だよ。
なんで時計見て顔赤くしてたわけ?」
ーーみ、見られてた!!
「別に。赤くなんか……」
「してた」
嘘は許さないとばかりに強く見つめられて胸が苦しくなるのはいつものこと。
「そ、そんなことより、どうしてここに?」
「お前どうせまた傘持ってないんだろうなぁ、って思ってさ。
それでまたどっかでやっすいビニール傘買っちゃうんだろうなぁって。俺と会う前にお前よくここ寄ってるだろ?だから、迎えに来てやった」
いつものオレ様の笑顔と
「ほら」と
差し出された紺色の傘。
「……」
真新しいその傘を見て胸が熱くなる。
いつもは素っ気ない癖に困った時に優しいなんて反則だろ?
多分、きっと今度こそ赤くなっているだろう顔を見られたくなくて
下を向いた俺の顔を
「ん?どうした?」
覗き込みながら甘い声で鼓膜を愛撫するのも
やっぱり反則で……
俺はこの顔とこの声に……ホント弱い。
ーーお前と初めてキスした時のこと思い出してたんだ。
ーーそれで赤くなってたんだよ。
なんて言える訳ない。
「なあ、ハル?」
「何?」
「また……しような?」
「えっ?」
その言葉に咄嗟に顔をあげると
男前の顔が意地悪そうに楽しそうに意味深に笑っている。
ーーええぇぇぇぇぇぇ?!!!
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