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第1話

 ほとんどの家庭が夕食を済ましたであろう時間。昼間は人々の声が行き交う街だが、この時間になると一転して静かになる。だが、今日は昼間のように賑わっていた。  子ども達がそれぞれ好きな仮装をし、家々を訪ねお菓子を貰うーーハロウィンを楽しんでいるためだ。本来のハロウィンとは違うと思うのだが、それを気にする人はこの町にはいなかった。  数年前まではハロウィンを楽しむ習慣など、この町には無かった。だが段々と浸透していき、今では町全体のイベントとして行われている。ハロウィンの前日までにはくりぬかれたカボチャがそこここに置かれている。大人はいくつものお菓子を篭いっぱいに用意し、子どもは仮装する衣装を用意し、当日までには準備をすべて終えて万全の状態で迎える。これがこの町での当たり前になっていた。  普段は街灯でしか照らされていない道が、カボチャ越しの灯りや子ども達の持つランタンの灯りによって、いつもよりも明るく照らされている。  シーツを被りお化けの格好をしている子。頭に獣の耳をつけ狼男の格好をしている子。大きな三角の帽子を被り魔女の格好をしている子。皆がみんな、楽しそうに笑いあっている。  笑い声も灯りも届かない、静かで月の明かりしかない小道に、一人の男が歩いていた。  背丈は大人の男性のようだが、マントを羽織り口から大きな牙が覗く吸血鬼のような仮装をしている。暗いため目につきにくいが、肌はやけに白く、瞳は紫がかった深い赤色。やけに張り切った仮装だと言われそうな出来だ。  だが、この男の場合は仮装ではない。  男は正真正銘、吸血鬼だった。  いくらハロウィンをイベントとして盛り上げているこの町でも、人間以外の存在なんて信じられていなかった。牙以外は普通の男性と変わらない見目である吸血鬼が出歩けば、奇異の目で見られることは避けられない。けれど、この日は違う。  この町では子どもが仮装をすることが当然となっている為に、大人の男性が仮装をしていることを不思議に思う人はいるだろう。けれど普段向けられる目に比べれば、とても優しい目だ。誰かに会ってもハロウィンを楽しんでいるとしか思われない。人間と一緒に楽しむことが出来るこの日が吸血鬼は好きだった。  それなのに、堂々と明かりのある道を歩かずわざわざ暗い小道を行くのは……この先に目当ての場所があるからだ。

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