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第2話

 外で飛び交う賑やかな声に、町長と呼ばれる若い男はため息をついた。  ハロウィンのイベントをやるようになって数年。町に住む住人にはこの行事が浸透しそれぞれ楽しんでいるが、去年あたりから違う町の人も少しだが参加するようになった。そのおかげで、この時期は金銭的な意味でも町が活気づく。それはとても喜ばしいことなのだが、と町長は再度ため息をついた。  この町長は、夜の静かな時間が一番好きだった。だが、ここのところ夜だろうが準備の物音がそこかしこでざわめき、今日に至っては興奮した子どもの声が室内にまで響く。この町の皆が楽しんでいるイベントなのだからと我慢している町長だが、当日のやかましさは毎年ため息をついてしまう。  温かいお茶でも飲んで気分を落ち着けようとしたとき、裏口からコンコンと音がすることに気づいた。訪ねてくる人は、大抵通りに面している表口から呼び掛けてくる。裏口を使うのは町長本人と、ほぼ毎日のように来る一人の男しか思いつかない。  あらかじめ用意していた菓子をテーブルへ置き、町長は裏口へと向かった。  ドアを解錠しゆっくり開けた先には、大きな牙を口から覗かせた男が立っていた。 「やぁ、こんばんは。今日も町は賑やかだね」 「そうだな。明日からは静かになってほしいものだ」  町長の言葉を聞いた吸血鬼は、クスクスと笑った。  何か飲むかと聞いた町長に吸血鬼はなんでもいいと答え、慣れた足取りでダイニングへ向かった。  外にいたときも聞こえていたが、室内でも子ども達の「トリックオアトリート!」という声がよく聞こえる。これが普段だと、時計が針を進める音しか聞こえない。人によっては居心地が悪いと思う空間だが、吸血鬼はとうの昔にそう感じなくなっていた。むしろ好きだと感じるようになってから、ここへ訪ねるのが吸血鬼の日常になった。  ふと、テーブルの上にあるお菓子に気づいた吸血鬼は、あ、と声が出た。 「ちゃんとお菓子を用意しているんだね」 「もうそろそろ子ども達がここへ来るからな。お前も渡すだろう?」  ふふ、と笑った吸血鬼は「ありがとう」と言った。奇異の目で見られないこの日は吸血鬼が唯一、人間の子どもと関わることのできる日だ。それを喜んでいることを知っている町長は、事前に用意できない吸血鬼の分も余分に用意している。そのことも、吸血鬼は嬉しかった。

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