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第3話
この町にいる吸血鬼は男一人だけだ。元々は別の場所で同族と一緒に暮らしていたのだが、自分とあまり見た目の変わらない人間に興味を持ち、違う町から越してきたのだ。小さい頃から自分は人間に恐がられる存在だと教えられていた吸血鬼は、誰にも見つからないよう人間を観察し始めた。
だが、町へ来てわずか二日目で町長に見つかった。隠れて観察をする気があるのかと問い詰められても仕方ないほどに、吸血鬼はひどく目立っていた。コスプレをする不審者がいると相談された町長が様子を見に行ったとき、吸血鬼は高い丘の上で双眼鏡を覗いていた。その先には小さい子ども達がいる。
警察に連絡しようとしたとき、いつの間にか近くにいた不審者にガッシリと腕を掴まれた。
「あの、つかぬことを伺いますが……もしや警察に連絡しようとしてますか?」
町長は、不審者を凝視したあとに方向転換しただけだ。よく分かったなと変に感心して「よく分かりましたね」と素直に言えば、目の前の不審者が顔をひきつらせた。
「いや、まぁ……昔同じような表情を見たことがあるので」
「あぁ……」
「いや、でも違うんです。前科とかないです。少し話をさせてください。お願いします」
吸血鬼にとって、警察は天敵だった。何度も職務質問をされ、何故だか署で話そうと半強制的に連れて行かれ……関わるとろくなことにならなかった。
吸血鬼が人間に恐がられる存在だと言われていたことも頭から抜け、必死に自分が吸血鬼で人間の観察がしたいだけだと訴えた。
そんなことを言われても町長は信じられなかった。たしかに男の見た目は人間らしくないが、牙は作れるし肌は化粧でなんとでもなるし、瞳だって色付きのコンタクトを装着すればいい。昼間から双眼鏡で人々を眺めているのは、ただの不審者だと結論づけていた。そのため「何か吸血鬼だという証拠はありますか?」と冷静に返した。
分かりましたと答えた吸血鬼は、町長の腕に思いきり噛みついた。
「思いきり噛みついてすみません。ですが、痛みを感じないと思います。一度でたくさんの血液を頂く為に、痛みを感じさせない成分と血液が固まりにくい成分が唾液に含まれています。すみません、ついでに血液もらいます」
そう言った吸血鬼は、流れる血液を丁寧に舐め飲み下していく。
その様子を見ても、町長は呆然として動くことが出来なかった。
吸血鬼の言う通り、舐められている感触は分かるが痛みはひとつも感じていなかった。血液も流れ続けている為、なんだか目の前がチカチカしてきた。貧血になるほどの量は出ていないはずだが、目の前で起こっていること衝撃ですぐに受け入れられなかった。
けれど、しばらくすれば気分は落ち着いた。食事を終えた吸血鬼が「信じてくださいましたか?」と尋ねてみれば、町長はずっと思っていたことをボソリと呟いた。
「蚊みたいだな」
その出来事以降、町長は吸血鬼の世話をしている。
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