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ひよこ

「ほーらひよこ!!上履き返してほしかったら、こっちまで来いよぉ!!」 俺、藤堂 錦(とうどう にしき)は好きになった人をいじめてしまうタイプの人間だった。 「うぅ…にしきく…かえして〜…」 べそべそ泣きながら雛口 葉月(ひなぐち はづき) が靴下のままよろよろと走ってくる。 雛口、雛だからひよこ。 最初俺が馬鹿にしようと思って初めて雛口に声をかけ、ひよこ呼んだ時、雛口は俺が今まで見てきた中で一番可愛いく、万遍の笑みをして 「それ、僕のこと?…かわいい!」 俺の顔を見つめながら言った。 俺は馬鹿にして言ったつもりなのに喜ばれてしまい、恥ずかしい気持ちと、悔しい気持ちと、 嬉しい気持ちと、色々な感情で一杯になった。 今思えば、あの笑顔を見たことが雛口を好きになった決定的なものだったのかもしれない。 でも馬鹿な小学生1年生の俺は、そんな気持ちまだきちんとわかっていなくて、 「ばかにして言ってるんだよ!!お、お、俺はひよこが嫌いだから!お前のことも嫌いだから!だからひよこって呼んだんだ!」 本当は嬉しかったのに。喜ばれて、やっぱり嬉しかったのに。 心にもないことで、雛口を悲しませる。

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