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第1話
「あんた!ずっと家にいるつもりなら、少しは家のこと手伝いなさいよ!!」
「だぁもう!!分かってるよ、うるさいなぁ」
「分かってるなら立って働け!」
母親に頭を殴られ、ムカッと来たが言っていることは正しいので頑張ってムカつきを沈める。そう。この家では、家の財布の紐を握っている母親に敵う者はいない。それに、敦也 は今家に生活費を入れていないので、なおさら逆らえるわけはなかった。
渋々といったようにソファから立ち上がると、母親を手伝うために掃除機を手に取った。
「母さん。どこから掃除機かけたらいい?」
「和室以外は全部よ。和室は掃除機じゃなくてほうきでね。ほら、さっさと動く!」
「…………はい」
敦也は大きなため息をつくと、掃除機のスイッチを入れた。
「ふぉぉぉ。コードレス掃除機、ここまで使いやすいとは!」
独り暮らしをしていた頃、使っていた掃除機は約3千円のもの。それに比べて、実家の掃除機は最新式のコードレスの掃除機で、使いやすさが桁違い。
敦也は結構楽しそうに掃除機をかけていたが、隅々までやっていないのが母親にバレ最初からやり直しさせられていた。
34歳にもなって、母親に怒られながら掃除をやるとは思ってもいなかった。自分でも思うぐらい、エリート街道を歩いていたのだから。
イケメンでも美形とも言えない普通の顔だったが、運動もできたし勉強もできた。それに敦也の優しく男らしい性格は皆から好かれ、友達や彼女に困ることはなかった。
そして、頭のよさを活かしいい高校に入学し、いい大学に入学し、IT系の会社にも就職した。
3年前から付き合い始めた彼女とも順調で、会社でも重要な案件を任されるぐらい地位も上がっていた。それなのに、急に敦也はリストラされた。
リストラされた後、すぐ彼女にもフラれた。
『あなたなんか、IT系の会社に勤めてないなら、ただの普通でお喋り上手で聞き上手なおっさんよ』
こう言われて、敦也は彼女にフラれてしまった。
リストラされ、彼女にもフラれ、マンションの家賃も払うことなんて出来ず。泣く泣く実家に戻ってきたのだ。
「早く仕事を見つけて、実家を出てやる!」
そう意気込むが、全然仕事が見つからないのが現状だ。何故かって?それは両親が、敦也に就職活動をさせないからだ。それよりも何故か花嫁修行をさせられている。
「絶対仕事を見つけてやる!」
「敦也!早く掃除を終わらせて、クッキー作りを始めなさい!夜には瑛斗 くんが来るって言ったでしょ!」
「は?何で瑛斗が来るってだけでクッキーを作んなきゃいけねーんだよ」
「今日ハロウィンでしょ!瑛斗くん、あんたがここに戻ってきたって聞いてから、あんたの作るクッキーがハロウィンで食べられるって楽しみに待ってるんだから」
母親にそう聞かされ、敦也は15年前の瑛斗と過ごしたハロウィンのことを思い出していた。
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