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第2話

―15年前― 「あーくん、あーくん!」 トントンと可愛らしいドアを叩く音がした。そして敦也を呼ぶこの声は、隣の家の一人息子である瑛斗の声だ。 今日瑛斗が来ると分かっていた敦也は、ドアの前で待っていた。手には、手作りのクッキーを持ってだ。 待っていた瑛斗が来たのだ。すぐにでも出ようと思ったのだが、今日はハロウィンだ。少し悪戯してやろうと、何度瑛斗がドアを叩いても敦也の名前を呼んでも出なかった。 すると。 「ひぐっ。あーぐ、あーぐん!」 瑛斗が泣きながらドアを叩き始めた。瑛斗の泣き声にヤバイと思った敦也が、慌てたようにドアを開けた。 目を真っ赤にして泣いている瑛斗がいると思った。だから敦也は慌てて開けた。しかし実際にいたのは、ニッコリと笑う瑛斗だった。 そう、嵌められたのだ。3歳時とは思えない演技力で。 「…………よぉ、瑛斗。お前、さっき泣いてなかったか?」 「んーん!えいくんないてない!」 「そっか。俺、お前が泣いてると思ったよ」 「あーくんは、いたずら、め!なんらよ」 狼のコスプレをした瑛斗が、プンプンとした様子で敦也に抱きついてきた。たまに3歳時とは思えないときがあるが、瑛斗は敦也にとって可愛い弟みたいなお隣さんなのである。 「そーだ、瑛斗。ここに来たってことは、何か言う言葉はねーか?」 「っ!えっとね、えっとね、といっく、そー、といーと!」 「………so?Trick or Treatじゃなくて、Trick so Treatでいいのか?」 「いーの!ままがこぇでいいって!」 社長である瑛斗の母親がそう教えたのなら、お隣とはいえ他人である敦也が言うことはなにもない。それに、お菓子をいらないと言っているわけではないのだ。 だから、瑛斗のために焼いた大量のクッキーを渡してあげた。 「くっきー!」 瑛斗のためだけに作ったクッキーを、嬉しそうに持ちながらはしゃいでいる。うん、可愛い。頭でも撫でて癒されようか。そう思っていたが、どうやら時間切れのようで。外の方で、瑛斗を呼ぶ声がした。 「…………あーくん。またこんど、くるから」 「おう」 本当に泣きそうな顔でバイバイと瑛斗は手を振った。敦也も振り返す。 そして次の日に、敦也は実家を出たのだ。 「瑛斗か。あのハロウィン以来、1回も会ってなかったな」 「そうよ。いろいろとタイミングが合わなくて。だから、今日はもう掃除はいいから焼いてあげなさい」 「おー」 「それと、今日の夜お父さんも私も家にいないから。瑛斗くんと2人、頑張んなさい」 母親が、ものすごい笑顔で敦也に向かって親指を立てた。グッ!と言う感じで。瑛斗と2人何を頑張ればいいのかと思ったが、気にする方が負けと感じた敦也は急いでクッキーの準備をした。

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