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第10話

「んん、ん、ぁ…」 吐息の合間に細く漏れる声。 何度も蹂躙された穴はぬかるみ、熱く熟れ、ぽかりと口を開けたまま。そこからとろりとろりと吐き出された白濁が溢れて、濡れる。 糸の切れた人形のように脱力した身体。 腰を引き寄せ、脚を開かせると、その中心では濡れそぼった性器がすでに力なく項垂れていた。 「ぁ、ぁ、あ、ぁ――…」 ちゅぷり、と存外可愛らしい音を立てて、開ききった入口が押し当てられた屹立を飲み込む。ゆっくりと亀頭を埋めかけたところで、引き抜く。肉の輪が引き留めるように絡んで甘い快楽の痺れが走る。 押し込んで、抜いて。それを何度か繰り返していると、抱えていた脚の片方が抗議するように動いた。 ねだるように裸の腰から脇腹へなぞるように動いて、本人はもしかしたら蹴り上げたつもりなのかもしれない。くすりと笑みが落ちる。 了承して、再び腿と腰を抱え直す。 背を伸ばして腰を押し進めると、ぬぷんと咥え込んだ先端をなめらかに飲み込んでいく。濡れてやわらかい粘膜が抵抗なく包み込んでいく。 「っ、あ」 意識のないはずの彼が甘く啼いた。 内側の弱いところを擦り上げて、内壁が弱く収縮する。さざ波のような刺激がたまらない。細く吐き出した息が愉悦で甘く染まっている。 「んん…」 奥へ、奥へ。 ゆっくりと押し進めた腰が最奥に辿り着いて止まる。いつもならぎゅうぎゅうと熱く締めつけてくる肉の壁は、みちりと包み込んで甘くとろけている。 ゆるりと腰を揺すり上げた。 上体を倒して、吉成の顔の横に手をつくと、自然と抱え上げた腰が上向く。綻んだ唇に軽く口づけて。 「愛してるよ」 びくんっ、とその肢体が強く揺れた。 閉ざされた行き止まりのその先へ。 何度か抜き差しして、きつい粘膜の入口にゆっくりと侵入する。 「ぐっ、あ、あぁ…!」 吉成が苦しげに呻いた。 同時に腹を濡れたものがぷるんと撫でる。 項垂れていたものが僅かに芯を持ち、頼りなげに揺れていた。先端から蜜がじわじわと溢れ出る。 切先を食まれるような甘い心地よさにうっとりする。抵抗を超えて、二つ目の肉の輪を抜ける。 ―――ああいやだ。αなんてろくなものじゃない。 乾いた唇を舐め、口角が上がる。 とん、と張りのある尻が腰骨に当たった。 いつもなら吉成の身体を気遣い、途中で止めるけれど、すべてを収める充足感には背筋が震える。先端から根本まで――ノットすらも。 「あ、あああぁあ…っ!!」 吉成はぶるぶると身体を震わせ、弛緩した下肢からぷしゃと蜜を噴き出した。 「はは、ははは…っ!」 あまりのいやらしさに笑いが込み上げる。 吉成は全身を痙攣させながら、淫らにαの雄を受け入れる。逃げようとしたって逃げられない。膨らんだノットは射精が終わるまで抜くことができないからだ。対象を自分だけの雌にするまで、終わることはない。 吉成の身体を内側から己のフェロモンに染め上げつつも、どうしても暗い願望が過る。 肉の薄い腹をそっと撫でて。 「孕んでしまえばいいのに、ねぇ、吉成」 *** 「吉成くん、うちの会社で働かない?」 「…え?」 そう誘いをかけてくれたのは、誉さんのパートナーの祐吾さんだった。 「誉もこれから産休に入るし、手伝ってほしいんだ。吉成くんならこれまでも手伝ってくれてるし、勝手もわかるだろう?」 「でも、間宮がなんて言うか」 そう言葉を返すと、祐吾さんは電話口の向こうで「ふん」と鼻を鳴らした。 「間宮のご子息なんて関係ない、オレは吉成くんの意思を聞いているんだよ。このままずっと閉じ込められたままでいいのか?」 祐吾さんは厳しい声で続ける。 「大学だって辞めさせられて、現状まともに働きに出れる環境でもないだろう?まだ若いのに、間宮の跡取りに任せてたら世間から隔離されたままだぞ」 耳に痛い言葉だ。 祐吾さんは誉さんのこともあって間宮のことをよく思っていない。監禁に近いオレのことも心配してくれている。 『――愛してるよ、吉成』 間宮の甘い声が甦る。 間宮が本気になれば、β一人、一生まるごと囲い込むことも容易だろう。 でもオレ自身はどうだろう。例えば間宮に番ができたら?子供ができたら? たった一人取り残されて、間宮の庇護の下で生きていくことができるだろうか。 「仕事があれば間宮がいなくても大丈夫…?」 「いや、そういうのとは違うんだけど…」 言い淀んだ祐吾さんは「まあいいや」と続けた。 「とりあえず考えてみてよ。もちろん吉成くんが自分で考えた上で断るなら、それはそれで構わないし」 受けてくれたら助かるし、嬉しいけどね。 そこで終話した機械を手に呆然とする。 ―――働く?自分が…? にわかには信じられなかった。 そんなことできるのか?間宮のテリトリーから出る?オレが? まず胸の内を過ったのは、恐れだった。その次に混乱。とにかくまずは間宮に相談してみようと思って――。 「ああ、いいんじゃないかな」 「…え?」 間宮なら絶対に拒絶すると考えていた。 なのにあっさりと了承されて、拍子抜けする。 「誉のところならオレも安心だし、吉成がやりたいなら、いいと思う」 「…そうか」 虚をつかれたまま受け入れる。 …いいんだ。なんだ。 驚いた。とても驚いた。 驚きすぎて、ぱかんと底が抜けて心のどこかが空っぽになった――ような気がした。

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