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第24話

「ねぇオレたちってさ、もう運命じゃない?」 ちゅっ、と軽い音を立てて離れる唇。 「いろいろあったけどやっぱりいっしょにいるんだもん、これを運命と言わないでなんて言う?」 「え、αの執念じゃない?」 「ちょっと吉成!?」 間宮に怒られてつい声を上げて笑ってしまう。 「運命かどうかはわからないけど、神様の思し召し、ってやつかな」 「なにそれ最高じゃん!」 それからもう一度キスをした。 今度は先程よりずっと深く長く、お互いを喰らい尽くすように。 絡み合うように抱きしめ合い、寝室へ向かう。 競うみたいに互いの服を脱がし合ってベッドへとなだれ込む。 「なあ、本当にいいのか?あんたの相手をするのは、んっ、オレだけになるんだぞ?」 「それが、何?」 丁寧でも最低限の愛撫で、早急に繋がって抱きしめ合う。 「ああでもαの性欲全部受け止めてもらうことになるのか。ごめんね」 「んあァ…っ!!」 指を絡めて繋いだ左手を持ち上げ、薬指の付け根に歯を立てるのと同時に、ずんと強く突き上げられる。奥まで暴かれて嬌声と涙が溢れる。 肌を合わせる間宮もまた目尻を染めて、ほうと甘く息を落として。 「間宮ぁ…っ!」 「ほら、琉って呼んで」 「んんっ、琉、琉!!」 「…ああ吉成、愛してる」 それはほっと安堵したような、さらに欲を深めるような、妙に沁みる声だった。 余裕のない仕草で顔を固定されて口の中まで深く蹂躙される。 「ん、んんー!」 そこからは意味のある言葉も紡げなかった。 荒れる激情に流されるまま求め合う。 どんどんとろけて間宮の熱との境目が曖昧になって、ひとつに混じり合ってしまうような錯覚を覚えた。溺れる者のように必死に男に縋りついて、ひたすら愛を、情を、強請るばかり。 *** ようやく衝動が落ち着いた頃にはすっかり日が傾いていた。 くったりとシーツに沈むオレの上で、間宮は飽きもせずぺろぺろと肌に舌を這わせている。くしゃりとその髪に指をくぐらせた。 「なあ、琉」 ああくそ、声が掠れて喋りづらい。 「もし、さ。もしいつかあんたが番いたいと思うΩに出会ったら、そのときはオレの喉笛を噛んでくれよ」 胸に秘めていた願いを告げれば、ぴたりと間宮が動きを止める。 そして傷ついたような目でじろりと睨み上げて。 「何ふざけたこと言ってんの」 そのままがぶりと喉仏に噛みつかれた。 「うっ!?」 「冗談やめてよ。まだそんなこと言ってるの?最後はうなじ噛みちぎって番にしてやるんだから」 「…はは、それでもいいや」 どうせβじゃαの番にはなれない。 フェロモンで結ばれる最上の絆にはどうしたって敵わない。 オレは未来を信じることはできないが、獰猛な野生生物たるαの腹に収まることができるなら本望だった。永遠を約束されたようでそれはとても幸せなことに思えた。 「ばか。わかってるのか。愛してるんだよ、吉成」 「オレもだ。オレもあんたを愛している」 腕を伸ばして大きな獣を抱きしめる。 愛というには歪で、ひとつもきれいな想いじゃないけれど、こんな重い執着の塊でしか伝えられないのはお互い様だな、とおかしくなる。 ああ。やっと安心できる場所に戻ってきた気がする。 ―――とろとろと微睡んで、どちらかが起きたらまた触れ合って。 「誉が?そんなこと言ったの?」 夜が深まってもベッドで二人、横になっていた。 すこしでも離れるとすぐさま腕が伸びて抱き寄せられる。 二人きりでシーツに籠城するのはひどく特別な時間に思えた。閉じ込めて誰の目にも触れさせたくないと考えるのはこんな感じか、なんて。Ωに発情期がある理由をちょっと理解できた気がする。 いまは今日のことをぽつぽつと話していた。 「そう。だから腹が立って出てきちゃったんだ」 オレはΩなんて嫌いだ。 最初は誉さんのことも苦手だった。いろいろあって大嫌いになって、嫌いじゃなくなって、気にかけてもらって助けてもらって。 …だが改めて考えると、恩には報いたいが複雑な気持ちになる。やっぱりΩは身勝手だ。 「うーん、なるほど」 オレの隣で間宮が頷いた。 「たしかにそうだね。オレはαとして誉にしたことの責任を取らないといけないと思っていたけど、Ωの性のはけ口にしたのは誉が先か」 「籍を入れたって、オレはβだから。あんたをΩのフェロモンから守ることはできないんだよな…」 触れ合っているとどうしてか口が軽くなる。 間宮はにんまり笑うと、喜び勇んでオレの頬に繰り返しキスをしてきた。 「吉成好き!かわいい!やさしい!」 「ちょ、間宮……っ」 じゃれ合いのキスが発展して頬にかぶりつかれる。おい、やめろ。 「ふふ。吉成に守るって言ってもらえるの、やっぱりしあわせだなあ」 うれしそうにされると悪い気はしない。うそだ。とてもうれしい。 「吉成が好き。すごく好き」 「…うん」 「誉に限らずさ、率直に言ってΩのヒートって迷惑じゃん」 ん?と首を傾げる。 「αが寛容なのは番にだけだよ。それ以外はΩ相手だって容赦しない。望まないフェロモンで精神を乱されるのを嫌悪するし、不特定多数を誘うようなΩは唾棄すべき存在だ。だから、他の誰かの運命の番かもしれない他所のΩを害することだって簡単にできる」 なめらかに紡がれる間宮の言葉に、目を瞠った。 「吉成はフェロモンってなんだと思う?動物だって持ってるんだよ?だったら性種なんて関係ないと思うんだ。そもそもオレは人の原種はβだと思っていて。番がフェロモンの相性で選別されるなら、αとΩのペアに限らないでしょう」 「んん?」 「フェロモンなんて所詮は遺伝子のサインだ。個体識別番号。Ωのフェロモンが特殊なのは繁殖行動に特化するため」 個体識別番号とか繁殖行動とか。 αらしい考察だと思った。運命の番については結局はフェロモンの好みが云々、なんて東坂も言っていた。 「オレね、もういまじゃΩのフェロモンにうんざりしてるんだ。好きなのは吉成の匂いだけ。うん、いい感じ」 「ちょ…っと、やめろって」 首筋に鼻を寄せてすんと鳴らされる。 汗ばんだ肌を嗅がれるのは抵抗があってもがくけれど、身体に回された腕によって阻まれる。 「だめだよ逃げないで」 「オレにフェロモンなんてないって」 「あるよ。運命の番がフェロモンで繋がっているなら、オレは吉成こそ運命だと思ってる」 「だから!」 「うん、わかってる」

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