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第1話

「松葉、興奮しちまって、恥ずかしいなあ。ここがどこかわかってるのか?」  顔から火が出そうなのは、羞恥より怒りの方が強い。  目の前の男――中原は歪んだ満足そうな笑みを浮かべ俺を見つめる。  会社のデスクに下着すら身に着けることを許されず、全裸で立たされる。椅子に座った中原が俺の足を指し棒でぺちぺちと叩いた。 「自分の机に臭い先走り垂らしちゃって、まあ。好きものだな」 「っ……」  自分の意志ではどうすることもできない。  俺は床に転がった銀の貞操帯を見た。あれのせいで一週間以上、射精はおろかまともに勃起すらできなかった。中原が気まぐれに鍵を外し、貞操帯を取った瞬間から勃起が止まらず、指し棒が肌を滑る感覚だけで下半身がジクジクと疼いてしまう。  こんなことは仕方のない生理現象だとわかっていても、デスクの上に立たされ、何も身につけていない体を下からまじまじ見られるのは屈辱以外の何物でもなかった。 「やるなら、さっさとしろ」  挑発するように言ったが、中原はそれが気に食わなかったらしい。  手を振り上げ、俺の足をぴしゃりと叩いた。 「四つん這いになってケツの穴こっちに向けろ」 「……狭いだろ、ここじゃ」 「つべこべ言うな、さっさとしろ」  ガツッとデスクを蹴られ、俺がよろめくと少し上機嫌に鼻を鳴らす。 「立派なもんがぶらついてるぞ。勃起ちんぽブラブラさせて恥ずかしいやつだな」 「っく……」  反射的に手で隠そうとすると指し棒で腿を叩かれた。 「馬鹿。勝手に隠すなって言ったよな? 忘れたのか?」 「……いや……」  手を下ろし、顔を背ける。  中原が再びデスクを蹴った。明日使う資料がファイルと共に床に崩れ落ちる。 「っ、な、中原……」 「資料なんか気にしてる場合か? あ? さっさと四つん這いにならねえと、てめぇの代わりに古町呼んで見世物にするぞ」 「……お前っ」 「嫌なら、さっさとしろ」  古町は営業部の事務で、俺の婚約者だった。来年には正式に婚姻することが決まっている。  彼女を巻き込むなんて絶対に嫌だ。  俺は中原に命じられた通り、デスクの上で四つん這いになったが、やはり狭く、俺のデスクだけでは横向きが精々だった。 「早くケツ向けろって」 「見てわからないのか、これが精一杯だ」  嫌味を言うと、中原が急に立ち上がり、思い切り俺の臀部を引っ叩いた。 「あっ」  尻がじりじりと熱を持つ。  続け様に二度打たれた。 「く……ぅ……っ」 「向かいのデスクに手ぇつけばいいだろ。そんなこともわからねえのかよ」 「っここは……」  俺に仕事を仕込んでくれた佐伯さんの席だ。恩人と言ってもいい。  こんなことに、デスクとはいえ佐伯さんを巻き込みたくない。こんな時に恩師のことを考えたくない……。 「ほら、早くしろ」  中原が急かすように俺の尻を叩く。 「っ頼む、他の格好にしてくれ……」 「俺はお前が嫌がることをしたいんだよ。その格好が嫌なら、佐伯の席でやるか? それとも、本人を呼ぼうか?」 「やめろっ」 「お前が資料作成に手間取ってるって連絡すれば一発だろうな。社宅からだとここまで十五分くらいか?」 「っわ、わかったから……」  俺は佐伯さんのデスクに手をついて中原に言われた通りの格好になった。 「……満足か、これで」 「まさか。もっとこっちにケツ突き出せ、頭下げて、下品な穴がよく見えるようにな。……そうだ、偉いぞ」 「ぁ、うっ……」  中原が手の甲で俺の性器を撫でた。普段なら性感を得られるような触り方じゃないが、一週間放置されたせいで敏感になっている。  それも、ただ放置されただけならまだしも……。 「撫でられただけで感じてるのか? ケツ穴が物欲しそうにヒクヒクしてるぞ」 「違、ぁっ……」  中原の指が臀部の割れ目をなぞり、窄まりに爪を引っ掛ける。 「っく、ふ……ん」 「だらしなく揺れてるぞ」 「はっ、あ!」  バチンと引っ叩かれ、衝撃が頭の奥まで響く。  叩かれてひりつく皮膚を中原の指にくすぐられ、ぞわぞわと鳥肌が立ち、腕から力が抜ける。 「っく……うぅ……」 「さてと、松葉の気持ちいい場所はどこだろな」  この一週間、散々嬲られてきた場所に中原の指が突き立てられる。 「あ、ぐっ」 「腰を引くな、腰を。ほぅら」  コンドームつきの指で中をいじられる。中を触られる圧迫感は未だに慣れない。ニチニチと粘度の高い音がする。 「ここだったか? こっちか?」 「うあっ、ぐっ」  腸壁をグリグリと押され、鈍い痛みが腹の奥で響く。手首を噛んで声を抑えた。  とぼけたようなことを言う中原がわざとソコを触らないようにしているのは明らかだった。俺が強請るのを待っているに違いない。 「どうした? いつもの気持ちよさそうな声を出せよ」 「っふざけ……ふぁ!」  ずるっと中原の指が抜けると同時にアソコを掠める。  たったそれだけなのにガタガタと体が震えた。こんなことにならなければ一生知り得なかった刺激だった。 「あっ、ぁ……」 「そうそう、その声。ほしくてたまらないって声だ」 「や、やめ……ぁっ、ん……!」  また指が中に入ってきた。そしてしつこいくらい腸壁をいじり倒し、指を抜く時だけアソコに触れる。  そんなことばかり何度も繰り返され、だらしない声と一緒に閉じ切れない口から唾液が垂れる。 「あっ、ふ……ああぁ……っ」 「いい声が出るようになってきたな」 「っく……くそ、ぅぐうっ……!」  指を引っ掛けられたまま上に持ち上げられる。  そのままずるっと抜かれた。 「あっ……く……」  目の奥が揺れる。下半身が切なくてたまらない。手を伸ばしてしごき倒したい。  一週間、貞操帯をつけられたままあの場所を触られ続けた。夜に押しかけられ、仕事中トイレに連れ込まれ、電車の中で痴漢まがいのことも……。 「おっと」  性器に伸ばした手を掴まれた。 「は、放せ……っ」 「オナニーしたいならしたいって俺に頼めよ!」 「うあっ――ぁ、あっあっ!」  尻を打たれた瞬間、目の前が一瞬真っ白になった。それと同時に背骨に強烈な甘い痺れが走った。腰が否応なしに震え鳥肌が止まらない。  中原に手を振りほどかれた。知らない間に握りしめていたらしい。 「っぃ、はぁ……ん」 「お前」  中原の声に笑いが滲む。 「ケツ叩かれてイったのか?」  果てた痺れが残る頭でその言葉の意味を理解し、じわっと顔から背中まで熱くなる。  中原が笑いながら俺の性器を握った。 「ん、あ! あぁっ……!」 「自分の精液は気持ちいいか? ん? どうだ?」 「だっ、や……めっ! あ、ふあっ」 「こっちもいじってやる」  中原の指が後ろに押し付けられる。  ぎくりと体が強張った時には容赦なく指が挿入されていた。それも、今までの焦らすような動きではなく、徹底的にあの場所を痛めつけるように指を叩きつけてくる。  激しい火花が目の前で散り、あっという間に二度目の絶頂を迎える。 「ひっ、あ……はぁ、ん……っ」  一度目とは違い、はっきりと射精後の倦怠を感じる。だが、容赦なく後ろをいじられ続けたせいで吐き出した後も下腹の中が熱でうずうずする。  息を整えているとぐっと髪を掴まれ、無理やり顔を上げさせられた。 「見ろよ」 「何を――っあ」  佐伯さんの片づいたデスクに白い液体が飛び散っていた。置いてあるファイルや仕事道具にはかかっていないものの……。 「早く片づけないと佐伯の仕事場に松葉のくっさい精液のにおいが染みつくんじゃないか?」 「っお前……!」  掴みかかろうとして体を起こした時、自分のデスクの惨状に気づいた。  あちこちに飛沫が飛び散っている。  あまりにも現実離れした光景と現状に言葉が出なくなる。  だが、中原はそんな俺のことなどお構いなしにスマホを構えた。 「や、やめ」  まずいと思った時には写真を撮られていた。  中原が画面を見て低く笑う。 「最高。何が笑えるってケツにコンドーム挟まってるところだよな」 「っな……!」  慌てて手を伸ばし、後ろからコンドームを引き抜く。 「……っん」  抜け出る瞬間、またシャッター音が聞こえた。 「撮るなっ」 「今更、一枚二枚増えたところで変わらないだろ」  中原は自分のカバンから除菌シートを取り出して手を拭く。 「ちゃんと片づけておけよ」  手を拭いたシートを床に放置し、中原は俺を置いてさっさと出て行ってしまった。  一人残された俺は処理をしながら、なぜこんなことになったのか、何度目かわからない問いかけを自分に向ける。  中原とは友人だった。大学で出会った、親友と言ってもいい。少なくとも、俺はそう思っていたのに……。  どうしたらいいのかわからない、鬱屈した思いで俺はデスクの片付けを始めた。

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