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第10話 おまえは俺のこと、どう思ってる?

「消すな。裸になって、もう一度ちゃんと見せて。おまえいつも耳も尻尾も俺の前では隠すから。今日はその格好でここまで来たんだ、いいだろう?」 「だって……嫌だ。」 「萎えないよ。お願い。」  裕太の真剣な眼差しに、大夢は無言で全裸になった。幻滅されるかもしれないと思う反面、すべてを受け容れてほしいとも思った。手足は普通の人間と大差ない程度の体毛しかなく、四足歩行になるわけでもない。牙も爪も鋭く伸びたりしない。狼男の片鱗は耳と尻尾だけだ。「こんなもんだよ。期待外れだろう?」 「そんなことないさ。」裕太は裸の大夢を抱き締めた。「やっとおまえの全部を見ることが出来て、嬉しいよ。」その言葉をどうとらえていいのか考えあぐねていると、裕太は大夢にキスをしてきた。「好きだ。やっと言える。愛してる、大夢。おまえが俺に本当の姿を見せてくれたら言おうと思ってた。」 「ゆう……。」 「愛してるんだ。誰よりも。」 「でも、おまえには愛斗が。」 「いいんだ。もういい。愛斗は恋人……と言うか許婚との結婚が正式に決まった。」 「許婚?」 「サヤカだよ。彼女も純血の吸血鬼なんだ。カカア天下間違いなしだけど、俺より余程あいつを理解できるだろう。何より許婚ってのを抜きにしても昔から愛斗に惚れてるしな。愛斗だってそうだ。でも、あいつは優しいから、俺を一人にできなくて、でも、俺もようやくおまえを見つけた。……だから、もう、いいんだ。」 「本当に?」 「おまえは俺のこと、どう思ってる?」  その答えを裕太はとっくに知っているに違いない。裕太はそういう奴だ。大夢からも裕太にキスをする。「愛してる。」  そうして大夢は、生来の姿を曝け出して、裕太に抱かれた。今までで一番幸福だと思った。この先100年を超えて生きねばならなくても、更には裕太が先に逝ってしまっても、この一夜の記憶があれば生きていけると思った。  翌朝、裕太は窓辺のソファに座って言った。「あの時、やっぱり大夢が狼男やれば良かったのに。」  ひとしきりの会話の後、大夢が部屋を出ようとすると、裕太が飛んできて背後から抱きしめた。「今日は俺の部屋に帰ってこいよ。明日も、明後日も、ずっと。」  その「ずっと」は100年か、200年か。ああ、でも、何年先だろうと、死が2人を分かつその日まで、毎晩この男に愛されるなら、怪物(モンスター)に生まれて良かったと思う。  大夢は月に吠えたくなる気持ちを初めて理解した。今満月が見えたなら、世界中にとどろかせたい。狼男から吸血鬼への、永遠の愛の言葉を。 (完)

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