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第9話 これがおまえの本当の姿か。

 だが、裕太にとって自分はただの性欲処理係だ。それも、愛斗の代役の。都合がいい相手にも程がある、と思うが、それ以外に裕太とつながれる方法がないと思えば甘んじるしかなかった。  しかも、そんなつきあいが数か月続いたところで気づいてしまった。あの割れるような頭痛や、胃がひっくり返るような嘔吐感が消えている。裕太たちドラキュラは日に一度のセックスをしないとひどく衰弱するらしいが、どうやら自分の場合も適度な性欲処理ができていないことでその症状が出ていたようだ。 ――俺はもう、裕太なしじゃ生きられない。 ――身も、心も。  だからこそ、愛斗と別れて俺とつきあってくれとは言えなかった。愛斗と裕太は互いの命綱なのだ。  好きだ、愛している、俺一人を見てくれ。大夢はそれらの言葉を決して口にすまいと決めた。  その誓いを破ったのは、その一年後。昨夜の話だ。雲もない満月だからと断りの連絡を入れようと思ったその時、珍しく裕太のほうから電話がかかってきた。 「大夢。今夜は隠さなくていいんじゃないか?」  断るより先にそう言われて言葉に詰まった。 「いくら妙な格好をしても平気な日だ。そのままの姿で来いよ。」  大夢はハッとした。今日は――ハロウィン。だが。 「そのままだなんて、尻尾生えてるんだぞ。萎えるよ。」 「そんなことないから。絶対にない。」  力強くそう言われて、大夢は了承した。  愛斗は不在だと言うので裕太の部屋に向かった。街は仮装にあふれ、耳と尻尾を出していても、裕太の言う通り誰に何を言われることもなかった。やがて裕太たちの住む高級マンションに着く。エレベーターで高層階に上がり、ドアの前に立つと裕太がドアを開けて招き入れた。  裕太は大夢を頭のてっぺんから足の先までじっくりと見た。「これがおまえの本当の姿か。」 「あんまり見るなよ、恥ずかしい。」  更には大夢の背後に回る。「尻尾の毛、思ったより硬いんだな。」いきなり尻尾をつかまれてびっくりした大夢だが、裕太の手に力はそう入っておらず、気を使ってくれていることは伝わってきた。  とはいえ、尻尾を触られるのは少々困る。「ちょ、触るな。」正確にはその付け根が問題なのだ。そこに触れられると。そう思った矢先に、まさにそこを撫で上げられた。 「犬猫はこのへん、気持ちいいところなんだってな。」裕太がそう言うと同時に、体が反応してしまった。「ああ、やっぱり、狼男もそうなんだ?」 「余計なことしなくていい。」大夢は裕太の手を振り払って、ベッドに突進した。「さっさと済ませよう。」わざとそんな言い方をして、部屋の明かりを消そうとした。

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