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第8話 そういう約束だからな。
「そう思うと同族のおまえと愛斗がこうも身近にいたなんて奇跡だな。」
「いいや。」裕太は空のグラスを下げ、新しい水割りを出した。「うちは生殖だけでなく血をすすって同族を増やすし、活動時間帯の制限もあって、一族がまとまって暮らすケースも多い。それがたまに息苦しくてな。――俺は狼の自由さが羨ましい。」
裕太の意味ありげな視線に気づかないままに、大夢は「血をすする」という言葉にうなだれた。荒々しく生肉を屠る母。その姿が目に焼き付いて離れない。自分も満月の晩は肉しか受け付けないが、せめて椅子に座りナイフとフォークで食べると決めていた。
何か察したのか、裕太は補足した。「今は人工血液があるから、俺も愛斗も生き血をすすった経験はないけどな。」
「そうか。」
「ただ。」裕太は珍しく言い淀む。「生き血じゃないと性欲が収まらない。放置すれば起き上がれなくなるほど体が辛くなる。俺たちにとって生き血をすすることは食事であるとともにセックスだからな。人工血液で食欲は満たされても、そっちは解決しない。」
「それも周期的なものか?」
「1日だ。つまり毎日生き血をすするかセックスしないと、体がもたない。」裕太は大夢から視線を外した。「だから、愛斗に恋愛感情があるわけじゃない。体調管理のために都合がいい相手というだけだ。」
その言葉を聞いて、大夢の心は高鳴った。けれど苦しくもあった。愛しているわけではなくても、裕太は毎日愛斗の元に戻り、交わるのだ。
「じゃあ、寝る相手は誰でもいいのか?」気が付いたらそんな言葉が口をついて出た。
「……愛斗には恋人がいる。そっちはそっちでよろしくやってるはずだが、それでも必ず家には帰ってきて、文句も言わずに俺に抱かれる。そういう約束だからな。」裕太は再び大夢を見た。「俺にもそういう相手がいれば、愛斗の負担を軽くしてやれるんだけど。」
その晩、大夢は初めて裕太に抱かれた。閉めた後の店の中でのことだ。翌日もそうした。その後はなし崩し的に裕太に溺れた。大夢の家で、あるいは愛斗が恋人と外泊する夜は裕太の部屋で。しかし、裕太に半獣の姿を見せることはどうしても抵抗があった。ある程度は意志で制御できるが、快感に悶えている最中にそこまで意志を保てるはずがなかった。
「今日は会えない」――満月の晩はそう言って断るしかなかった。大夢は裕太が愛斗と過ごしているだろう夜を、身悶えしながら耐えなければならなかった。
――いつの間に、こんなに、裕太のことを。
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