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第7話 1人で生きていくことのほうが辛い。
あまり思い出したくない記憶だ。狼男の末裔であることには誇りもあったけれど、同時に恥ずかしくもあり、そして恐怖でもあった。物語に登場する狼男は人を襲い、月に向かって遠吠えをする。母はそんな野蛮なものではない、自分も祖父も人を襲ったことなどないと言ってくれたが、満月の晩には半獣の姿で大量の生肉を食らっていたのを知ってしまった。大夢が覚醒するまではそれを隠していた母だが、狼男として生きて行かねばならなくなった息子に、生きる術を伝えるためにとその浅ましい姿をあえて見せるようになった。しとやかで美しいはずの母は、大夢よりも狼男の血が濃いせいで、より獣に近い姿となり、血の滴る肉の塊にかぶりつく。それを目の当たりにして心穏やかでいられるはずもなかった。
そんな自分が「狼男の仮装」をするにふさわしいと名前を挙げられた小6のあの日、ついに自分の秘密に勘付かれたかと怖かった。誰からもそうと指摘はされなかったが、まだ変身の周期が不安定で、いつ耳や尻尾が飛び出すか分からない大夢は神経過敏にならざるを得なかった。
「でも結局、俺は狼男をやらなかったんだ。その代わりに女子が魔女をやることになって……ああ、それがサヤカか。」
「そう。俺がそう仕向けた。」裕太はグラスを磨く手を止めて、大夢を見つめた。「おまえのためにな。」
「……知ってたのか。」
「ああ。俺はとっくに自分がドラキュラだってことを知ってたし、おまえが狼男として覚醒したことにもすぐに気付いた。けれど、おまえ自身はまだその現実に向きあえていなかった、そうだろう?」
「そうだ。あれの1年ぐらい前に初めて変身して……母親以外のモンスターの存在も知らなくて、不安だった。その母親も死んだけどな。人間の親父もその後すぐ。」
「人間の家族が生きている時に死ねたのなら幸せだ。」
「母もそう言っていた。そういうものなのか?」
「そりゃあそうだ。1人きりでは死にたくない。」
「1人で生きていくことのほうが辛い。」大夢は初めて他人の前で弱音を吐いた。「おまえはこんな風に生まれたくなかったとは思わないのか?」
「ドラキュラの血に不満はないが、一人寝はしたくない。だから、愛斗と暮らしてる。」
「愛斗もドラキュラなのか?」
「ああ。あいつは純血種だ。」
「えっ。」大夢は驚いた。愛斗が稀少な純血種だったとは。しかも、裕太と同族の。「それは少し羨ましいな。」大夢はグラスを傾ける。甘いカクテルは卒業して、最近はもっぱらウイスキーだ。「狼男は、俺の他にいるのかな。」
「さあ。残念だが俺もおまえ以外の狼男は知らない。」
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