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第6話 いや、つまり、そういうつきあいだ。
同胞の匂いの中にも、自分とは異なる微かな鉄の匂いを感じ取ると、大夢の脳裏にはあのホームルームがフラッシュバックした。――そうか、裕太は。
「……ドラキュラ。」大夢は呟いた。
「狼男。」と裕太が受けた。彼も気づいたのだろうか。だが、それに続いたのは「どうぞ、お好きな席に。」という業務的な言葉だった。客はまばらで、大夢は一番端に座った。「何飲みます?」と、慇懃な態度を崩さずに裕太は言った。
「初めてなんだ、まともに酒飲むの。初心者にも安心なのをひとつ。」いつもなら見栄を張りたがる大夢だが、裕太には見透かされる気がして正直に答えた。
「かしこまりました。」裕太も茶化すことなく、軽めのカクテルを作った。
それから、月に2度ほどのペースでその店に通うようになった。特に何を話すわけでもない。酒について教えてもらったり、スポーツの試合結果の話をする程度のことだった。思い出話も、「同胞」の話もしなかった。そもそも裕太が本当に「ドラキュラ」なのかの確認すらしないまま1年が過ぎた。
「愛斗って覚えてる?」ある晩、突然裕太が言った。砕けた口調は他の客が誰もいない時だ。
「ああ。6年の時、同じクラスだった。おとなしい奴。」
「今、あいつと暮らしてる。」
「えっ。」大夢はカウンターの向こうの裕太をまじまじと見た。「ルームシェア?」
「同棲。」
「同居だろ?」
「いや、つまり、そういうつきあいだ。」裕太はグラスを磨きながら言った。
「……そう、か。」思いがけない言葉だったが、ドラキュラだの狼男だのというよりははるかに「普通」のことだと思った。大夢は愛斗を思い浮かべようとしたが、すらりとしたシルエットが思い出されるばかりで、顔は思い出せなかった。「彼、元気にしてるの?」
「相変わらず色白で、不健康そうな見た目だよ。でも、それが俺たちの普通だからね、元気ってことだ。」大夢が愛斗の姿かたちを思い出せている前提で、裕太は話を進めた。「俺のルックスもだいぶ理想的なドラキュラに近づいたと思うけど、やっぱり愛斗のほうが正統派のドラキュラだな。サヤカが見たらきっとそう言う。」
「サヤカって誰だっけ。」
「ほら、おまえが狼男の仮装をごねた時に塾だからって先に帰っちゃった子。」
「……ああ、あったなぁ、そんなこと。」
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