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第5話 次の恋をするまでの孤独は誰とも分かち合えない。

 死の間際、母は自分は幸せだったと、大夢と、その父親である人間の夫に語った。 ――いくら長寿でも、絶対的少数派である同胞を見つけることは容易くはない。恋の相手だって人間なのが普通。けれど数百年の寿命を持つ眷族と、せいぜい百年程度の人間との恋は、いつでも人間の死で終わってしまう。次の恋をするまでの孤独は誰とも分かち合えない。 「でも、ママは孤独じゃない。家族に見守られながら逝けるなんて、こんな幸せなことはないわ。ありがとう。」  そうして母は300年の生涯を閉じたのだ。大夢が16歳の時だった。死の床にあってなお母は若々しい姿のままで、確実に老化していく父とは違う時間軸で生きていたことを思い知らされた。その父も人外と知りつつ愛した妻を喪うと後を追うように亡くなった。  孤独。母のその言葉が大夢に重くのしかかった。  母は、死ぬ前のたった十数年は家族と過ごすことができた。しかし、そこに至るまでの200年以上の年月はどうだったのか。生涯ただ一度の恋ではなかったにせよ、常に誰かと共にいられたとは思えなかった。更には祖父の500年。想像するだけでその絶望的な孤独に眩暈がした。  やがて大夢は20歳を迎えた。その頃には変化が起こる周期は満月の夜に安定していたが、数か月に一度はひどい頭痛と嘔吐感に見舞われるのが厄介だった。耳と尻尾は帽子や服で誤魔化す術を見つけていたものの、この症状だけは薬を頼っても改善されなかった。成人式の行事も同窓会もすっぽかしたのは、まさにそのタイミングに重なってしまったせいだった。とはいえ重い症状はほんの半日のことで、翌日の昼にはけろりと治る。一日遅れの成人式を1人でやろうと勝手に決めて、適当に目についたバーに入った。  そこにいたのが裕太だった。裕太は小学生の頃よりもかなり痩せ、肉が削げた分、彫りの深さが目立つ顔立ちになっていた。背筋をすっと伸ばして、バーカウンターの中で優雅に立ち居振る舞う様は、まさに貴族のような気品さえ漂わせており、かつてのやんちゃな巨漢の面影はない。それなのに、一目で分かった。彼があの同級生だと、そして、自分と同じ怪物(モンスター)だと。同胞にしか分からないであろう独特の匂い、そして初めて同胞を見つけた歓喜で粟立つ肌によって。

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