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ハロー、Mr.パンプキン
昨今のハロウィン熱は、年々ヒートアップしている気がする。
夏休みも終わってしまい、これからまた長い二学期が始まるのかと気怠い気分になっている中山知樹 の心とは裏腹に、街は明るいオレンジ色に染まりつつある。
まだ九月も上旬だというのに、店のディスプレイにはカボチャやコウモリが踊り、雑貨屋にはズラリと並んだ仮装用のコスプレ衣装。
飲食店の壁にも、ハロウィン限定メニューがあちこちに貼られている。
一体いつから、日本はこんなにハロウィン大国になったんだろう。
最近ではハロウィン当日ともなると、街中をコスプレした人々が埋め尽くしている様子が報道されるのも、毎年の恒例になりつつある。
例えば可愛い彼女がちょっとセクシーなコスプレを披露してくれるというのであれば、多少は気持ちも浮つくのかも知れないけれど、知樹には生まれてからこの十六年間、彼女なんてものは一度も居たことがない。
見た目も性格も、至って平凡。どこにでも居る高校生。
そんな自分には、ハロウィンだからと特別盛り上がる理由が何もない。
同じクラスの少し派手なグループの連中は、早くもハロウィン当日に仮装パーティーをしようと昼休みに盛り上がっていたけれど、彼らと付き合いのない知樹は誘われてもいない。
場所によってはお菓子が貰えるイベントが開催されているところもあるらしいが、対象は基本小学生以下の子供限定というものが多いので、やはり知樹には無縁な話だ。
放課後、ノートとシャーペンの芯を補充する為に立ち寄った文具店にも、カボチャや黒猫などがデザインされたメモ帳や付箋、マスキングテープなどが並んだハロウィン特設コーナーが設けられていた。
───こういうの、女子は好きなんだろうな。
知樹には何が「ハッピーハロウィン」なんだか、全くわからないけれど。
オレンジや紫に彩られた派手な一角を素通りしようとしたとき。
棚に並んだメモ帳の奧に、たった一本だけ立っているボールペンがふと目に留まった。
ノック部分が大きなカボチャになったボールペンだ。
それだけならいかにもハロウィンらしいと思うのだが、そのカボチャの顔が妙にリアルで、おまけに軸の部分は真っ黒というのが、他の商品と比べると随分不気味に見えたのだ。
これだけはとても女子ウケが良さそうには思えないのだが、売れているのか、それとも元々入荷数が少ないのか、たった一本しか無いのが却って知樹の気を引いた。
「なんか、気味悪いペンだな……」
思わず手に取って見てみると、不気味なカボチャと目が合う。
その瞬間、一瞬キラリとその目が怪しく光って、知樹は息を呑んだ。
───!?
驚いてペンを落としてしまいそうになり、何度も目を瞬かせたが、それっきりカボチャの目が光ることはなかった。
特にスイッチが付いているというわけでも無さそうだし、店の照明が偶然反射しただけかも知れない。というか、きっとそうに決まっている。ただのボールペンなのだから、単なる気のせいだ。
まだ動悸の治まらない自分の胸にそう言い聞かせて、知樹は不気味なペンをさっさと元の場所に戻した。
ニヤリと笑うカボチャのボールペンの真っ黒な軸には、オレンジの細い文字で『Treat or Trick』と刻まれていた。
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