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Mr.パンプキンの夢

 知樹は冷たい石畳の牢獄の中に居た。  鉄格子の向こうに、知樹の身長を遥かに上回る巨大なカボチャが鎮座している。  薄暗い闇の中、ぼんやりとオレンジ色に光る吊り上がった目と、ニヤリと笑う巨大な口。  その周りを無数のコウモリが飛び交っていて、不気味さに後ずさろうとした知樹の足元を、いつから居たのか、不意に黒猫がサッと横切り、鉄格子の隙間をスルリとすり抜けていった。 「うわ……っ!」  驚いてその場に尻餅をついた知樹を、カボチャが嘲笑っている。  くり抜かれただけの瞳がどこを見ているかなんてわからないはずなのに、何故かその目は真っ直ぐに知樹を見詰めているような気がした。  どうして自分はこんな所に居るんだと思うより先に、 『Treat or Trick』  耳というより、頭の奧に響くような低い声が聞こえた。  目の前のカボチャの声だ、と直感的に知樹は思った。  ───『Treat or Trick』?   よく聞くハロウィンのお決まりの台詞と順序が逆なのが気になったけれど、このカボチャは知樹に菓子を強請っているのだろうか。  けれど知樹は手ぶらで、周囲を見渡しても暗い牢獄内には濁った水が溜まった桶がポツンと置かれているだけで、差し出せるようなものなんて何も見当たらない。 『お菓子をくれなきゃイタズラするぞ』というのがハロウィンの定番だが、この状況でされるというのは、想像するのが恐ろしい。 「あの……俺、何も持ってないんだけど……」  とにかくここから出たい一心で鉄格子を掴みながら答えると、動くはずのないカボチャの笑みが深くなったような気がした。 『私をもてなせ。でなければ、お前は一生その中だ』 「一生……!? どういうこと……ってかそもそもここ何処だよ!? 何で俺こんなとこ入れられてんの!?」 『私をもてなせ』  知樹の問いに答える様子はなく、低い声が繰り返す。もどかしさに鉄格子を握る指先に力を込める知樹の目の前を、揶揄うようにコウモリが飛び回る。 「……もてなせって、何しろって言うんだよ」 『年に一度の祭典だ。誰より親しい相手を惑わせ、私を楽しませろ。そうすれば、お前には格別のを与えよう』 「誰より親しい相手……?」  それに『甘さ』って?  まだまだ聞きたいことがあるのに、そこで突然知樹の視界がコウモリの群れに遮られた。けたたましい羽音に思わず目を閉じる。  

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