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第24話

「…ン…っ…」 心地よい倦怠感とまどろみの中、すぐ近くに温もりを感じてそれに抱きつくと、何故かその温もりは意志を持っているかのように俺を包み込んできた。 …温かい…。 …… ……… ………ん……?温かい? ハッと目を覚ました俺の視界に映ったのは、…人肌…。 日焼けした滑らかな肌と、鍛えられているとわかる胸元。そして背中に回されているものは…、腕…。 突然、意識が目覚めた。と同時に全ての記憶が蘇る。勢いよく起き上がろうとして、途端に下半身を襲った激痛にまた身を沈めた。 「…クッ…」 「おい…、朝からそんなに暴れる奴があるか…。大人しくしてろ」 鼓膜を直接震わせるような穏やかな低音。 抱きしめられた状態でゆっくりと顔を上げると、いつになく優しい眼差しをした御堂がそこにいた。 …なんだ、この甘い空気…。 口から砂糖を吐きだしそうな程に甘ったるい空気に、恥ずかしくて顔が熱くなる。 ヤバい…、俺…ちょっとおかしい…。 窓から差し込む光が朝日の様相を呈している事から、夜が明けた事を知った。 喘がされ翻弄され、縋らされ…。 自分の痴態を思い出すとこのまま逃げ出したくなってしまう。 「顔が赤いな」 「うるさい、黙れ」 顔を伏せて憎まれ口を叩いたのに、御堂の唇からは楽しそうな笑い声しか聞こえてこない。 …クソっ…、俺ばかりが振り回されてる。 これが惚れた弱みとでもいうのだろうか。普通だったらこんな立場に甘んじていられる俺じゃないのに、御堂が相手だと受け入れられる。 それでも、恥ずかしさは消えない。 …参ったな…。 そんな事を悶々と考えていると、背に回されていた御堂の腕が尚更強く力を込めてきた。さすがに苦しい。 「…おい、苦しいだろ」 「…一番やっかいなのは、柏野、か…」 突然耳に聞こえた苦み走った声。 「…は?…静輝?」 何故ここで静輝の名前が出てくるんだ。 意味がわからず再度顔を上げて御堂を見ると、なんともイヤな顔で眉を顰めていた。 「お前、部屋を変えろ」 「はぁ?なに訳わかんない事言ってんだよ。そんな事出来るわけないだろうが」 そう言った瞬間、まるで嫌がらせのように御堂の腕が体を締め付けてきた。 「ちょっ…オイっ…苦し…って!」 足先で御堂の脛を蹴飛ばすと、少しだけ腕の力が緩んでホッと息を吐き出す。 「俺を殺すつもりか」 「もし柏野と何かしてみろ、本気でお前を部屋に閉じ込めてやる」 「…御堂さん…、それシャレにならないから…。っていうか静輝にはもう話はしてあるからそんな事にはならない」 溜息混じりに答えると、何が気に入らなかったのか、今度は後頭部を軽く小突かれた。 「なんだよ」 「なんで苗字に戻ってんだ」 「…何が」 「昨日は俺の事龍司って呼んでたのにな?…色っぽい声で」 「…なっ…」 それまでの仏頂面はどこに言ったと聞きたいくらいの御堂のニヤリとした笑みに、全身が羞恥で熱くなる。 ふざけるな、と言う為に開いた唇からは、恥ずかしさが極限に達したのか一切の言葉が出てこない。 そんな俺を満足そうに見つめた御堂は、至極楽しそうに言葉を紡いだ。 「これから俺の事を名字で呼ぶ度、お仕置きだ」 「ふざけ…っ…ン」 近づいてきた唇に、抗議の言葉は全て奪われた。 そして奪われたのは言葉だけではなく、結局、土曜日と日曜日というこの二日間の全ての時間が、御堂によって奪われる事となった。 そして週の明けた月曜日。 連絡も何もなく部屋に戻らなかった俺に、静輝が怒り心頭だったのは言うまでもない。 ―終―

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