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掴まれた腕

しばらくして落ち着くと、時雨のスマホが鳴る。誠からだった。   「あ、成美さん、すみません。電話出てもいいですか?」 「うん、いいよ」    そういって朝と同じように少し離れた場所で電話に出る。   「もしもし」 『もしもし?今どこにいるの?』 「・・・散歩してる」 『どこを?』 「・・・家の近く」 『迎えに行くからどこにいるか教えて』 「いや、大丈夫だから。もう帰るよ」    迎えに行くといってきかない誠を何とか説得して電話を切る。  成美のもとにもどると、成美は傘を開いていた。   「成美さん?」 「もう帰らなきゃいけないんでしょ?送ってくよ。今は僕傘持ってるしね」 「・・・はい」    今は成美と一緒に居たかった。だから朝みたいに断ることはせず、送ってもらうことにした。  帰りは無言だった。なぜか話ずらかった。話だすタイミングを完全に失ってしまい、成美も特に話したりしなかったから、なんとなく二人ともなにも口にしない。  マンションにつく。時雨は成美にお礼を言った。   「送ってくれてありがとうございました」 「ううん。今日は、ありがとね。助かった」 「それは俺の方です!こんな俺の話、聞いてくれたし、それに、成美さんの話を聞けて、俺、ちょっと良かったって思ったんです」 「え、なんで?」 「変な意味とかではないんですけど、なんとなく、一気に成美さんっていう人間を知れた気がして。ちょっとだけ、うれしくて」    言っていて、これは変のうちに入るのでは?と思いもしたが、でもそれが本心だった。すると成美は少しだけ笑ったが、柔らかな笑みを浮かべて時雨を見る。   「僕も、君を知ることができてよかった」    その言葉が、なぜか時雨には別れの言葉のように聞こえしまい、咄嗟に成美の腕をつかむ。   「どうしたの?」 「あ、いや・・・。その、これからも、会いに行っていいですか?」    不安だった。成美を知ってしまったから、もう成美はあってくれないかもしれない。そんな考えが脳裏をよぎったから。   「もちろんだよ。むしろ、こんな僕にまた会いに来てくれるのかい?」    悲しげな表情は何を言いたいのか時雨には全く分からなかった。でも、会いに行きたい。この先もずっと会いに行きたい。そう思った。だから時雨は勢いよく何回も首を盾に振る。   「・・・ありがとう。これからも、よろしくね」    クスクス、と笑った成美の顔を見て時雨は安心した。そして、よろしくね、と差し伸べられた手を握ると、グイっと引き寄せられる。

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