23 / 24

優しい人間

時雨は成美が自分みたいな人間とは関わらない方がいい、と言われている気がして心がズキズキと痛むのが分かった。 「・・・んだって」 「え?」 「成美さんだって、優しいですよ!今日の朝初めて会ったばかりの俺に優しくしてくれたじゃないですか。こんな俺の話、聞いてくれたじゃないですか。それは、優しさです。確かに、そう思うことはよくないのかもしれないけど、それでもいいじゃないですか。それは成美さんのせいじゃないじゃないですか。俺は、成美さんが俺を優しいって思ってくれるように、俺も成美さんのこと優しいと思っています。そんな優しい成美さんだから俺は友達になりたいと思いました。俺は、恥ずかしい話、友達と呼べる人間が一人しかいません。他人と関わるのが好きじゃないから。でも、優しい成美さんだから、俺は友達になろうと思ったんです。本当に嫌な奴なら、そんなこと俺は思いません。だから、成美さんも、泣かないでください」  時雨に言われて初めて気が付いたのか、成美はいつの間にか目から大粒の涙がボロボロと零れ落ちていた。  泣いたのなんていつ頃だろうか、と思うほど久しぶりのことで、自分で泣いているのかもわからなかった。手で涙を拭うが、止まらない。だんだんと目の周りがヒリヒリして痛くなってくる。  時雨はそんな成美の手をそっと目から離す。そして、今度は時雨が成美を抱きしめる。成美にしてもらったように、優しく、そっと。そして、昔父親にしてもらったように、ゆっくりと頭をなでる。 「・・・俺たち、似てますね」 「・・・そうだね」  二人とも目が真っ赤になって、涙もまだ完全に止まってはいない。それでも、二人はお互いを見あって笑う。不器用で、自己嫌悪が激しくて、自分を認めてあげられない。おまけに泣くのも下手くそで、他人に頼ることが難しい。でも、そんな二人だから出会ってすぐでもこんな話ができた。育った環境が違くとも、歳が違くとも、仲良くなることができた。 「時雨君の目、真っ赤だ」 「成実さんこそ、めっちゃ赤いです」  お互いの目元を拭い、やっと止まった涙が乾くとより一層赤くなる。成美はもともとの色が薄いからか、赤がよく目立った。時雨も成美ほどではないが目元が赤い。  しばらくして落ち着くと、時雨のスマホが鳴る。誠からだった。

ともだちにシェアしよう!