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ひどい人間

「でも、そんな父さんも早くに亡くなってね。僕がまだ中学生の時だったかな。でも、葬式の日はひどく晴天で、僕は家から出ることができなくてね。死に目に会えないどころか、葬式にだって顔を出してない。親族と親しい間柄の人だけだったから、あまりよくは思われてなかったんだろうけど、それを口に出す人はいなかったよ。時雨君、僕は葬式をやってるとき家に一人でいたんだけど、その時何を考えていたと思う?」  唐突の質問に、間をおいてからわからない、と首を横に振った。  成美は何かを考えるように深呼吸をしてからまた話始める。  時雨はその言葉をなぜか聞きたくなかった。きっとどんなことを考えていても嫌いになることはないが、それでも聞きたくなかった。成美の腕がひどく震えていたから。 「僕はね・・・僕は、あぁ、やっと死んだか、って思ってたんだ。涙なんてものは一滴も出なかったし、恨みつらみも並べなかった。ただ、あぁやっと死んだ、死んでくれたんだ、これで自由だ。ずっとそんなことを考えていたんだ」 「・・・く、くる、しい」 「・・・え?あ、ご、ごめん!」  時雨を抱きしめる腕の力があまりにも強くて、成美に苦しいことを訴えると成美はすぐに腕を離す。  その時みた成美の顔は、怯えているようだった。何を怖がっているのか、時雨には皆目見当もつかなかったが、まだ震えている手を今度は時雨が優しく握る。すると、成美は驚いた顔をした後すぐにほっとしたような顔をした。 「時雨君。君は後悔してる。お父さんに冷たい態度をとってしまったこと、最後まで謝ることができなかったこと、お母さんに寄り添えなかったこと、弟君にすべてを押し付けてしまったこと、友達に怒鳴ってしまったこと。それら全てをなかったことにして生きることだってできるのに、君は優しくて不器用だからそんなことはしない。だから自分でも泣いていることに気が付けなかったんだよね。君は、もう充分後悔してる。僕みたいに、人が死んで喜んでないし、笑って生きることもしてない。君は優しい子なんだよ。僕とは違う。だから、もう泣かないで。君は、笑っている方が可愛いから」  そう言って時雨の手を握りかえす。その手は、先ほどまで優しく体を包み込んでくれた人の体温とは思えないほど、冷たい。  時雨は成美が自分みたいな人間とは関わらない方がいい、と言われている気がして心がズキズキと痛むのが分かった。

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