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最終話

  「……はっ……ハァっ……あれ、もう朝……?」  手の中には、汗だくに濡れた佐波の細い腰。ローションや体液でトロットロに濡れた結合部に深くペニスを嵌めたまま、俺はふと窓の外が白んでいることに気がついた。  くったりと脱力し、俺のされるがままになっていた佐波もまた、とろんとした目を窓の方に向けた。火照って赤く染まった頬や、涙に濡れた長いまつ毛、そして色っぽい赤い唇……陶然とした佐波の表情を見ているだけで、性懲りも無くムラっと欲が湧く。 「ハァっ……ぁ……は……」 「ごめん、なんか……朝になっちゃったみたい」 「えぇ!? ……どんだけヤんねん……っ……あほっ……!」  佐波が退院し、東京に戻ってからというもの、俺たちは貪るようにセックスに溺れている。それこそ、空いた時間は全てセックスに費やしているのではないかと言うくらい、とにかく体を重ねていた。  雪山での遭難の後、モデル業も一ヶ月ほど休むとあって、キスマークも歯型もつけ放題。何をしてもいいという佐波からのお許しが出たものだから、俺はここぞとばかりに佐波の肌に吸い付いて、マーキングに勤しんだ。  アナルも、俺の形にすっかり馴染んだ。ここ最近はヤリっぱなしだったから、入念に慣らさなくとも俺のペニスをすんなり飲み込み、気持ちよさそうによがってくれる。だからついつい、大学のトイレや部室なんかで後ろから襲いかかってしまうのだ。  けど、佐波もそれに抵抗しない。口では「アホ! こんなとこでやめぇや!」と悪態をつくものの、身体の方はノリノリだ。すぐに俺のキスに応えて舌を絡めて、自分からズボンを下げて尻を突き出し、エロい腰つきで誘ってくる。  この間までは存在感の薄かった小さな乳首も、俺がいじりまくってしまったせいで、ぷっくりといやらしい形になった。ちょっと舌先で転がすだけで、つんと尖って芯を持つ。乳首責めをされて気持ちよさそうに身悶える佐波をいじめるのは最高にエロくて、かわいくてたまらない。  奥まで激しく突き上げられながら両乳首をつねられえて、嬌声を上げる佐波の姿は最強だ。最高にエロい。俺はどっぷり、佐波とのセックスにハマっていた。  そして今日は週末。  佐波の家で、昨日の晩からセックス三昧だ。  進んでフェラをしてくれるようになったり、自分から上に乗って腰を振ってくれたりするようになった佐波の妖艶さに、俺はすっかりメロメロだ。  芯から燃えてしまった俺は、しつこいほどに佐波を抱いた。「もう無理やからっ……!」と這って逃げようとする佐波の腰を強引に捕まえて、半ば無理やりペニスを突っ込むような、荒っぽいプレイまでやってしまった。  無理だと言っても、一度俺を咥え込んだ佐波のナカはとろけて、締まって、俺の精液を一滴残らず搾り取る。ペニスを挿れられているときは、佐波はやたらと素直なのだ。 「あ、ハァッ……きもちいぃ、やまとぉ、イイっ……」「おく、きもちいい……アっ……はげしいの、すき、ア、ぁっ……イくっ……!!」と普段のクールさは消え失せて、佐波は喘ぎ喘いで乱れてくれる。そういうところがことさら可愛くて、俺は何度となく佐波を襲った。  だが流石に、夜通しセックス漬けというのは負担だっただろうか。  俺も腰を振りすぎて若干だるいし、佐波も声を枯らしてぐったりしている。いくら慣れてきたといはえ、小さな尻の窄まりにこんなモンずっと突き刺されっぱなしってのは……さすがに可哀想だよな。 「佐波、ご、ごめんな。すぐ風呂入れてくるから!」 「んん……も、お前のせいよく、どないなってんねん……ハァ……しんど」 「だって、エッチしてる時の佐波まじで可愛いんだもん。やめらんねーよ」 「うう、げほっ……のどかわいた。水」 「あ、はい。ただいま」  タオルケットにくるまってしまった佐波のために、俺はいそいそとキッチンに走る。冷蔵庫を開けてみると、空腹で腹の虫が……。 「なんか食う? 腹減ったな」 「……俺は減ってへんけど……ていうか、お前何回中出ししてん。……うう」  身体を起こしてペットボトルをラッパ飲みしている佐波が、ふと身体を震わせた。そして、脚の間から垂れ流れている白濁を見下ろして、頬を赤らめつつ眉を寄せている。 「ご、ごめん……。ゴム切れちゃってさ〜……ナマでいいって言うから、つい」 「っ……ベトベトして気持ち悪。シャワー浴びてくる」 「気持ち悪いとか言う……」 「ほっといたら腹壊すもん。……後でなんか食い行こ。今何も家にないしさ」 「そーだな。ヘロヘロだけど、歩けるか?」 「うっさい、ほっとけ」 と、佐波は顔を真っ赤にしてプリプリ怒りながら、しなやかな全裸を晒してバスルームへと消えていく。白く引き締まった小尻を見送っていると、あんな小さな尻で、よく夜通しセックスができるなと感心してしまう。  ――すげえ怒ってたけど、今はそういうとこもめっちゃくちゃかわいく思えんだよなぁ……。いつもエッチの時くらい素直だったら、もっとかわいいのに。  カーテンを開けて寝室に風を通しつつ、俺はちょっと微笑んだ。  そして、ローションだの使用済みのゴムだのでぐっちゃぐちゃになったキングサイズベッドの片付けに、俺はせっせと勤しんだ。  +  赤くなった目を隠すためのサングラスと、黒いキャップ。ダボっとしたシルエットのブルゾンにスキニーデニムという格好の佐波は、どこにいてもよく目立つ。 『健康的なものが食べたい』と言い出した佐波と大学のそばにある定食屋に入り、俺たちはテーブルで向かい合った。 「そいや、おかんからメール来てた。お前連れて、京都に一回帰ってこいて言っとったわ」 「ぐふっ……!! ま、まじで? いいの?」 「すっかり大和のこと気に入ったみたいやなぁ」 「へぇ〜〜、すげ、なんか照れんな」  会うなりすぐに『佐波くんと真剣にお付き合いさせていだたいています!!』と頭を下げた時は、さすがに『あんた何言うてはんの!?』と目を剥かれたものだったが、病院でこれまでの話をするうち、お母さんはだんだん俺に気を許してくれるようになっていった。  お互い不安だったことや、深夜という時間帯も手伝ってか、俺とお母さんの間には、妙な連帯感が生まれていたように思う。  病院で聞いたけど、佐波のお母さんも元モデルなんだそうだ。仕事を通じて佐波のお父さんと知り合って、あっという間に結婚したらしい。  佐波の実家・黒崎家は、格式の高い老舗の化粧品メーカーだ。だが、お母さんはただの売れないモデルだった。教養があるわけでもなく、頭脳にも自信がなかった佐波のお母さんは、黒崎家に見合う妻になるべく必死で頑張ったと語っていた。  それは、俺がこれまで佐波に対して抱えていたコンプレックスに瓜二つ。だからだろうか、俺と佐波のお母さんは、自然と話が合ったみたいだ。 「京都か〜! 俺、小学校の修学旅行で一回行ったきりだわ」 「ふうん。……ほな、行く?」 「い、いいの? そういや、お父さんには挨拶してねーしな……」 「ええて別に。親父はほっといても」 「いやいやそうはいかねーだろ」  というのんびりしたやりとりをしつつ、俺たちはランチに箸をつける。 「でっかいんだろうな、お前んち」 「まぁね」 「お手伝いさんとかいんの」 「おう、二十人くらいはんで」 「えっ……冗談で聞いたのに。マジでいんの?」 「いるよ。ずっと実家にいたら自立できひんて親父に言うたら、こっちの大学行くんもすんなり許してもらえたっけな」 「ほぉ……」  なるほど、何やら佐波の実家は色々と桁違いな匂いがするな……と思いつつ、俺はカツ丼ランチをモリモリと腹に収めていく。以前は、こういう庶民的な店に佐波を連れてくるのはどうなんだと尻込みをしたものだが、佐波もまた美味そうに天ぷらうどんをすすっている。  俺に生活レベルを合わせてくれてんだろうけど、ぺろりと食べ終わって合掌し、こっちを見て「美味かったー。親子丼もつけよ」と笑う佐波を見ていると、なんだかすごく幸せな気分になった。 「食うの早っ。俺より早いじゃん」 「そら夜通し大和のしつこい責めに耐えたんやで? 腹も減るやろ」 「うう……そう言われると返す言葉もない」 「ま……まぁ、気持ちええから、いいねんけどさ……」 と、俺たちは何となく互いに赤面しつつ、もぐもぐと口を動かした。まさか佐波がこんなところでデレるとな思ってもみなかったため、俺までうっかり照れてしまう。  その時、また佐波のスマホが震え始めた。指先でタップして液晶の中を覗き込んでいた佐波が、「あ、ミハエルや」と言った。俺は驚きのあまり、緑茶にむせた。 「えっ!? なんで!? 何でお前らが繋がってんの!?」 「こないだの反省会の時に、連絡先交換してん。ほんで、今度飯でも食おか〜ってことになって」 「い、いつの間に俺を素通りして仲良くなったんだ……?」 「そんなんええやん別に。大和も来るか?」 「え? お、おう……色々事情も聞きたいし……」 「おっけ」 と、気軽な調子でメールを返し始めた佐波の口元には、今も機嫌のよさそうな笑みが浮かんでいる。  ちょっと前までは、喧嘩が多くててすれ違ってばかりいたけれど、今はあの頃が嘘のように、佐波の気持ちが手に取るように伝わってくる。  佐波もまた、恥ずかしさの裏返しでひたすら意地を張っていたとは思えないほど、俺の前でよく笑うようになった。そうして素直な表情を見せてくれる佐波と一緒に過ごせる時間は、ものすごく楽しくて幸せだ。 「ミハエル、今から出てくるって」 「えっ? まじ?」 「駅前の新しいカフェでパンケーキが食いたいんやて」 「パンケーキか……乙女だなぁ。俺、全部食えるかな」 「俺も食えへんやろし、半分こしよ」 「はんぶんこ……う、うん、いいね」  長い脚を組んでぶらぶらさせながら、スマートフォンでメールを打つクールビューティが『はんぶんこ』とか可愛いことを言う……俺は一人で萌えをかみしめつつ、ずずず〜とぬるい緑茶をすすった。  大きなガラス窓からふりそそぐぽかぽかとした陽光の中、のんびりとした時間が流れていく。  俺たちは顔を寄せ合ってスマートフォンを覗き込みつつ、女子力の高いパンケーキのラインナップを眺めるのだった。 『ケンカするほど何とやら。』 ・ おしまい

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